札幌第一高と鳥取城北高の明暗を分けた“差”=タジケンの甲子園リポート2009 Vol.5

田尻賢誉

随所で光った札幌第一高のけん制

勝利を喜ぶ札幌第一高バッテリー。両選手のたくみなけん制が勝利を引き寄せた 【写真は共同】

 1球目、だった。
 3回表、鳥取城北高(鳥取)の攻撃。1点を先制された直後の無死一塁、打者が9番であることを考えれば、かなりの確率で送りバントが想定できるケースだ。
 ここで札幌第一高(南北海道)の捕手・松浦昌平は右打者の外角へボール球を要求。素早いけん制で一塁走者をアウトにした。
「いつもスキがあれば投げようと意識しています。送りバントの場面では特にですね。1球めは様子見のつもりだったんですけど、ランナーを見たら戻りが遅かったのでこれはいけるなと」(松浦)
 得点を挙げた直後のイニングだったことに加え、カウント2−0と追い込みながら8番打者に許した悔やまれる安打の直後でもあっただけに、大きなプレーだった。

 3回2死一塁からは、投手の掛端亮治。2番・松本凌をカウント2−1と追い込んだところで一塁にけん制。スタートを切った一塁走者の迫田亮太を刺した。
「しかけてくるかなと思って、けん制を入れたら走ってました」(掛端)
走者が俊足の1番打者であることに加え、決め球である変化球を投げる確率の高いカウント。盗塁が十分考えられる場面で、けん制を欠かさなかったことが功を奏した。

 4回には、再び捕手の松浦。無死一塁、打者・谷掛裕哉が送りバントの構えをしていた場面で、今度は左打者の背中越しに一塁へけん制。一塁走者の松本をアウトにした。
「ひとつでも前の塁への気持ちが強すぎました。足に自信がないので、リードを大きく取って、スタートだけでもと思ったんですけど……。(自分の)予想以上に(第二リードで)出てしまっていました」(松本)
 味方が三者凡退に終わった直後、無死からエラーで出した走者だっただけに、松浦の好判断が光った。
 「いつもは右バッターのときしか投げないんですけど、一塁ランナーが気が抜けている感じだったので狙いました」(松浦)
 もうひとつ、この回で見逃せないのは2死からの掛端のけん制。2死一、二塁、6番・田中佑樹へのカウントがフルカウントとなったところで、二塁へ足を上げてから逆回転でのけん制球。2死で塁が埋まれば、2−3は走者が自動スタートするカウント。投手が足を上げた瞬間にスタートを切る可能性もある。アウトにはならなかったもののいいタイミングでのけん制だった。

流れを変える走者からのアウト

 8回には、1死二塁からセンター後方への大きな飛球でタッチアップした二塁走者の宇都宮亮の離塁が早いとアピールアウト。無死から失策で出した走者だっただけに、確認を怠らなかった1年生ショート・三浦拓馬のファインプレーだった。
「ベンチからもランナーは完全にベースに戻らないまま、触塁しないでスタートしたのがわかったのですが、よく見ていてくれましたね」(菊池雄人監督)

 アウトを稼ぐのは、打者からとは限らない。むしろ、27個のアウトのうち、いかに打者、打球以外でアウトを取ることができるか。走者から奪うアウトは、流れを変える可能性が大。ひとつのアウトが持つ意味は大きい。
 この試合、鳥取城北高は走塁ミスでのアウトが4つ。そのうち3人が無死で出塁した走者だっただけに、ダメージは大きかった。
「(鳥取大会優勝後)試合間隔が空いて、ランナーの調整(練習)ができなかったのが大きかった。タッチアップとかは試合でしかできないので」
 主将の迫田はそう説明したが、捕手の松浦はこの試合でもイニング間の二塁送球で1.87秒を記録した強肩。タッチアップはともかくとして、走者の無警戒さが目立った。

 状況を冷静にとらえ、この場面では次に何が予想されるのか、そのためにやらなければいけないことは何なのかを考え、実行する。試合前の準備、調整にスキが出てしまった鳥取城北高に対し、当たり前のことを当たり前にやることができた札幌第一高。
 勝負を分けたのはその差だった。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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