波乱の大会を制した“タレント軍団”前橋育英=インターハイ2009総括
波乱の大会を制し、初めての全国制覇を達成した前橋育英 【写真は共同】
米子北の躍進の背景には中国地区のレベルアップがある
「うちにはずば抜けた能力を持つ選手はいない」。同校を率いる城市徳之監督の言葉通り、確かに突出したタレントはいなかった。だが、3回戦の久御山戦、準決勝の佐賀東戦と、テクニックや個々のタレントで上回る相手と対峙(たいじ)しても、「勝利するために何をすべきか」ということを選手たちが十分に理解して試合に臨んでいる。
自陣に守備ブロックを形成し、ボールを奪った後はスピードと突破力のある2トップ、谷尾昂也と山本大稀が敵陣へと切り込むという明確なスタイルを打ち出す。さらに、豊富な運動量に裏付けされたボールへのアプローチの素早さ、攻守の切り替えの速さは、出場校の中でも群を抜くものがあり、そのブレのない徹底したチーム戦術は、多大なる効果を発揮していた。
もう少し視野を広げれば、米子北は近年、高校年代のサッカー界において目覚ましい成績を残す中国地区に属するチームである。いまだ記憶に新しい昨年度の全国高校選手権での広島皆実の全国制覇を筆頭に、サンフレッチェ広島ユース、広島観音高校、作陽高校など、中国地区には全国上位クラスのそうそうたる強豪が顔を並べている。
かつて静岡県や千葉県では「全国を勝ち抜くよりも県内を勝ち抜く方が難しい」と言われるほど、強豪チームがひしめき合っていた。また、県単位でなくとも、プリンスリーグ九州のように隣県や同地区の強豪が切磋琢磨(せっさたくま)することによって、地域レベルの活性化が促されていた。
現在では、プリンスリーグ中国の活性化から、地区全体のレベルが飛躍的に上がり、底上げという点では間違いなく成功している。準優勝を果たした米子北のほか、玉野光南高校もまたスピーディーな展開を武器にベスト8まで勝ち上がり、立正大淞南高校はベスト16止まりだったものの、彼らの切れ味鋭いサイドアタックは、3回戦にて2年連続4強入りを果たした大津高校を苦しめ、対等以上に渡り合った。
もちろん多くの人が予想しえなかった米子北の準優勝は、「波乱多き大会」の象徴的な出来事である。だが、単に「波乱」という一言だけで片づけるのではなく、それは同時に中国勢のレベルが高まりを見せている表れだったのではないだろうか。