名将・木内監督が脱帽した九州国際大付高の“軽打”=タジケンの甲子園リポート2009

田尻賢誉

「甲子園で軽打をするのは大変なこと」

3回の国枝の2点適時打は、見事なセンター返しだった 【写真は共同】

【九州国際大付 8−4 常総学院】

「甲子園に来ると気負い立っちゃいますから。イチロー打法をやってほしいんだけど、松井(秀喜)打法になっちゃうんだよね。やっぱり自分の手柄をほしがる。甲子園に来て軽打をするってのは、えらい大変なことなの」
 試合前、常総学院高(茨城)・木内幸男監督はこんな話をしていた。福岡県大会7試合で12本塁打を放った九州国際大付高(福岡)の打線については、「ガンガン振ってくれば、かえって抑えやすいということになるんですよ」とも言っていた。
 ところが――。
 九州国際大付高打線は、春夏合わせて全国制覇3度を誇る78歳の名将の予想以上だった。

 1、2回は無得点に終わったものの、1番の小林知弘、2番の和田篤はともにセンターへの飛球。3番の左打者・国枝頌平から生まれたチーム初安打は三遊間へのゴロの内野安打だった。5番・河野元貴が放ったチーム初長打も左打者ながらライナーで左中間を破ったもの。木内監督の言う「ガンガン振る」打撃ではなかった。
 それは、4点をリードされても変わらない。3回、先頭の三好匠がセンター前安打で出ると、四球、犠打でつくった1死二、三塁のチャンスで国枝がセンターへ適時打。5対4と逆転した4回には、救援した左腕・長谷川悟に対し、国枝、榎本葵がセンター前、河野がレフト前とクリーンアップ全員によるセンターから逆方向への3連打であっさり長谷川をKOした。

本塁打以上の脅威を生む“軽打”

「左の横っちょの長谷川に対して軽打。おっつけてきましたから。向こうの方が上でした」
 木内監督がそう言って脱帽したように、驚くべきは九州国際大付高の上位を打つ選手たちの意識。そう思わされるのには伏線があった。
 0対3とリードされた2回、無死から河野が二塁打で出塁。初の甲子園マウンドに加え、開幕試合の緊張もあり、投手の納富秀平が自らのバント処理ミスを含め、2イニングで6安打3失点と不安定な投球をしていることを考えれば、犠打で1死三塁とし、確実に1点を返したい場面だ。ところが、若生正広監督が選択したのは強打。しかも、打者の槇本兼磨は強い当たりだったとはいえ、サードゴロに終わった。木内監督は言う。
「(強打は)ウチのピッチャーがなめられてんなぁと思いました。打って勝とうという意識ですから。(三塁ゴロは)ウチじゃ、選手交代です。最低でも右方向にゴロで進塁打を打ってほしい場面ですから。まぁ、打ってヒットの方がいいと言われればそれまでですけどね」
 指揮官が強打で勝つという意識を打ち出し、4点差をつけられた。選手たちも打力には自信を持っており、冒頭の木内語録にもあるように振り回しに入ってもおかしくない展開だ。ところが、九州国際大付高の選手たちは“軽打”を徹底。それが、4回の5得点につながった。

「チームに力の差がありすぎました。あんなチームをつくらなきゃいけないと思ってるんですけど」
 木内監督の言う「力の差」とは、ただ単に能力のことだけを示しているわけではない。
“軽打”が本塁打以上の脅威を生む。
 能力のあるチームがこういう打撃に徹すると、相手チームにとっては怖い。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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