“最強”東龍が完全優勝 その裏に隠された秘話=高校総体バレー総括

田中夕子

常勝集団の東龍が連覇。三冠に向けあと一勝だ 【田中夕子】

 前評判から、他の追随を許さなかった。
「優勝は東龍(東九州龍谷の略称)で決まりだろう」
 昨年も春高、高校総体(インターハイ)を制した。三冠のかかった地元・大分での国体は準優勝に終わったが、メンバーが変わって臨んだ今年の春高も圧倒的な強さで女王の座についた。
 当然、インターハイも優勝候補の筆頭。九州文化学園の井上博明監督も、決勝進出を決めた後「東龍への対策? ないですよ。見てもらう人たちにがっかりされない程度に頑張ります」と苦笑いを浮かべたほどだ。

 準々決勝の大和南戦では、26−27と先にセットポイントをつかまれた。しかし、ここからが強い。小さなミスが続いた相手に対して一番嫌なところから攻め、劣勢も、あっという間にはねのける。常勝軍団を率いる相原昇監督の言葉も、常に余裕があった。
「今の3年生たちは、ずっと勝ち続けてきた経験がある。勝ち方を知っている。これが一番の強さです」
 ただ1つ、気になる要素を除いて。

エース・長岡にコートキャプテンが喝

「調子はいいんですよ。絶好調。でも、格好よく決めようとしすぎている。打ちたいように打つのではなく、決める打ち方をしなければならないのに、それができていない」
 相原監督が危惧(きぐ)していたのは、エース・長岡望悠(3年)の思わぬ不調だった。
 179センチのサウスポー、最高到達点は昨夏の計測で308センチ。素早いスイングスピードと、腕が身体に巻きつくような無駄のないフォームから放たれるスパイクは、高校生のなかでは群を抜いている。
 これまで全国大会は故障に泣かされ、100パーセントのプレーをすることはできずにいたが、今回はケガもなく、相原監督が言う通り、最高のコンディションを保っていたはずだった。ところが、練習時には難なく打っていたライトからのスパイクが、試合になると決まらない。1枚ブロックに封じられることも一度や二度ではなかった。

「今まではスパイクを打つときに、横から助走に入っていたんです。でも、大会前に(助走を)真っすぐに、少し後ろから入るようにしました。練習では打てていたので自信があったのですが、試合になるとなかなか決まらなくて……」
 準決勝を前に、1本1本のスパイクにこだわりすぎる長岡に対し、コートキャプテンの芥川愛加(3年)が声をかけた。
「考えすぎていたら、いいプレーにつながらないよ。ここまで来たら無心で、望悠のすべてを出し切ればいいんだよ」
 肩に入っていた力が、スッと抜けた。自分がこれまでやってきたことを信じればいい。ようやく呪縛(じゅばく)から解放された。

昨年果たせなかった三冠へ

 決勝では、助走を従来通り横から入る形に戻した。慣れ親しんだ入り方にしてみたら、打つ瞬間に身体の回転がかかり、スパイクに力がこめられると改めて気がついた。ストレート、クロス、面白いほど立て続けにスパイクが決まった。
 セッター・栄絵里香(3年)のトスにも助けられた。長岡の攻撃が生きるように、センター線を積極的に使い、サイドへのブロックを散らす。そして、要所は迷わず長岡へ――。
「絶対にここで決めてほしいというところで決めてくれる。本当に頼もしかった」
 鮮やかなストレートスパイクが相手コートに突き刺さり、ビクトリーポイントとなる第3セットの25点目も、長岡の左腕がもぎ取った。

「みんなが、助けてくれました」
 決勝戦で33本のスパイクを放ち、60%を超える決定率を残したエースに「最後で、一番いいバレーをしてくれた」と、ようやく相原監督から合格点が与えられた。

 大量リードをひっくり返された試合も、ミスで劣勢を招いた試合もあったが、終わってみれば1つのセットも与えない完全優勝だ。覚醒(かくせい)したエース・長岡の存在も大きいが、「高速バレー」を完成させるための基本技術の高さ、個の能力に頼らない「組織」でのブロック&レシーブの正確性、すべてにおいて東龍は頭一つ抜け出していた。
 
 国体を制すれば、昨年できなかった念願の「三冠」達成。期待は否応なしに高まる。しかし、芥川はこう言う。
「勝負に絶対はない。二冠を取っても次に勝てる保証はないのだから、チャレンジャー精神で臨みたい」
 “最強”東龍の牙城は、そうたやすく崩れそうにない。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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