“雑草軍団”大塚高がつかんだ初優勝=高校総体バレーボール

田中夕子

春高敗戦での気付き

初優勝を果たした大阪代表の大塚。頂点にたどり着くまでの軌跡とは 【田中夕子】

 まさか、優勝できるとは――。
 激戦区大阪を制した強豪校であり、今回で5回目の出場となるインターハイ(高校総体)で、これまで二度、ベスト4入りを果たしてはいる。何が起こるか分からない一発勝負のトーナメントとはいえ、戦前に「大塚高校の優勝」を予期することができたかと聞かれれば、答えは限りなく「ノー」に近い。いくら本命不在の大会とはいえ、3月の春高バレーで2回戦敗退を喫した同校が頂点まで上り詰める。ましてやインターハイのトーナメント初戦、玉野光南戦でも1セットを失い、2セット目も22−24まで追い込まれた。絶体絶命の大逆転勝利から初優勝へ。そんな快進撃を、一体、誰が予想することができただろう。

 春までは186センチの大砲・新井洋介主将と、192センチの高岡大輔(2年)の両サイドからを軸にしたオーソドックスなバレースタイルで全国制覇を目指してきた。しかし、先述の春高では、出場校の中でも1、2を争う高速バレーの崇徳(広島)に完敗を喫した。
「こういうバレーをやらなければダメだ」
 山口義一監督は、大会を終えると間もなく崇徳の本多洋監督に「練習試合を組んでほしい」と申し出た。さっそく4月第一週に広島へ出向き、敗れたばかりの相手に胸を借りた。高さで劣る部分を補うために、サイドだけでなく中も絡めた崇徳の立体的なコンビバレーから、自分たちのやるべきバレースタイルが新たに見え始めた。夏へ向け、取り組むべき課題は明確だった。

冷静なプレーが光った、セッターの濱

高校総体・男子決勝 初優勝し、喜ぶ大塚(大阪)の選手たち=大和郡山市総合公園施設多目的体育館 【写真は共同】

 サイドアウトはセンターのクイックを通し、これまではサイド一辺倒だった新井、高岡も中から時間差に入るなどコンビに絡ませる。当然2枚看板に対してマークもきつくなるので、そこをうまく外すためにライトの近藤大基(2年)のスピードも織り交ぜる。
 個性豊かなアタッカー陣を操るのはセッターの濱嘉宏(3年)だ。
「個々の力があるのは分かっていたけど、まとめるのが難しかった。でも、崇徳との練習試合で形が見えて、そこからは迷いませんでした」
 常に冷静で、ポーカーフェイス。チャンスでもピンチでも、同じリズムでトスを上げる。ネット際のボール処理も得意とし、ダイレクトでの押し込みやクイックを警戒する相手ブロッカーの裏をかき、テンポを外した時間差のトスにする技術も併せ持つ。緊張と興奮が高まる全国大会、市尼崎との決勝戦でも、淡々とした濱のプレーに乱れはなかった。

 序盤から土谷徹、親川隆英(ともに3年)の両センターにボールを集め、ラリー中でも積極的にクイックを使った。相手ブロッカーの意識を中に集めたところで、サイドへ速いトスを飛ばし、また中からの時間差攻撃やバックアタックを絡める。組織化されたブロックに定評のある市尼崎だが、濱のトスワークに完全に翻弄(ほんろう)され、的が絞れないまま、大塚はノーマークでの攻撃場面が続く。
「相手のブロッカーは大きかったけれど、動きはあまり速くなかった。これならクイックが効く、と思って積極的に使いました。自分はちっちゃいけど、だからってでかい相手にも負けたくないんで」
 サーブカットの中心になる近藤に対しても、タイムアウト時に「大きくても小さくても、カットを返してくれれば絶対決めてやるから」と声をかけた。近藤は「その言葉で安心した。『頑張らなきゃ』と思えて、いい結果につながりました」と振り返り、山口監督は「これほどの大舞台でも全く動じない。信頼できる、素晴らしい選手です」と手放しでたたえた。

 個々の役割を果たし、チームという組織をつくる。時には犠牲も伴った。
「(ライトの)近藤を生かすために、本来はレフトの親川をセンターにコンバートした。慣れないポジションなのに、文句1つ言わず黙々と練習してくれてね。アイツには何と言ったらいいか、本当に感謝しかないです。よくやってくれました」
 山口監督は、タオルでそっと目頭を拭(ぬぐ)った。
 23歳でガンを患った。「私の人生は、あのとき一度終わったようなもの」。あれから33年、歓喜の胴上げを終えると、満面の笑みを浮かべて言った。
「最高の喜びです」
 あきらめず、攻め続ける。信念で、雑草軍団が最後に栄誉を勝ち取った。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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