女子バレー全日本、戦いのカギとは?

田中夕子

真鍋ジャパンが挑む「ワールドグランプリ2009」。全日本女子の戦いのカギとは? 【Photo:牧野リュウ/アフロ】

 7月31日から大阪、東京などアジア地区を中心に、女子代表の国際大会「ワールドグランプリ2009」が開催される(※)。モントルー国際大会、エリツィン杯など約1カ月にわたる欧州遠征を終えた新生日本代表にとっては、ホームで開催される初めての国際大会である。「メダル獲得」を目標に掲げ続けながらも、アテネ、北京五輪ではベスト8に終わった日本女子バレーが、真鍋政義新監督のもと、どんなスタイルを構築しようとしているのか。
※日本の初戦は、日本時間8月1日の2時ごろ開始のオランダ戦(開催地ポーランド)。

監督が重要視する「スピード」と「ブロック」

 就任直後、5月に行われた記者会見の席上、真鍋監督が重要視すべきポイントとして提示したのが「スピード」と「ブロック」の2点だ。
 サイドへの平行トスに合わせた攻撃や、中に回り込んでの時間差攻撃など、海外チームからも「日本のスピードは素晴らしい」と「スピード」に関して一定の評価は得ている。しかし、これはあくまでサーブカットがきちんとセッターに返った場合であり、セッターが定位置から離れた場所へ移動しなければならないBカット、Cカットになるとコンビの成功率は顕著に下がり、敗戦後は「サーブカットが崩れて、何もできなかった」と、まるで決まり文句のように述べられ続けてきた。
 サーブカットが崩れた=コンビが組めないと図式化されてしまうと、それだけサーブカットを行う選手には「絶対に(セッターへ)返さなきゃ」とプレッシャーがかかる。サーブカットはメンタルが及ぼす影響も大きいため、気負えば気負うほど成功率は低くなる。そこで、真鍋監督が課題とするのがカットの崩れた場面からのコンビである。
「Bカットからの速いコンビを追求したい。セッターはもちろん、アタッカーもプレーの幅を増やさなければ、世界とは戦えない」
 まず軸になるのは荒木絵里香(東レ)、庄司夕起(パイオニア)、井上香織(デンソー)を中心としたセンター線のクイックが決まるか否か。世界の高さにも屈せず、翻弄(ほんろう)させるスピードをどれだけ進化させることができるかが上位進出へつながるカギになるだろう。

ブロックシステムの要、新主将の荒木

 ブロッカー同士が横に動く際の連携や、レシーバーとの前後の関係を含め、真鍋監督は「ブロックシステムの徹底」も重点課題として掲げている。攻撃面でのスピード向上と併せ、ブロックでも軸になるのはやはりセンター線。なかでも、欠かすことができないのが、新主将・荒木の存在だ。
 東レで荒木とブロック&レシーブの関係を築いてきたリベロの濱口華菜里はこう言う。
「絵里香さんのブロックは見やすいから、後ろが守りやすい。レシーブでカバーするというよりも、レシーブをカバーするブロックをしてくれる。すごく大きな存在です」
 同じリベロの佐野優子(久光製薬)も、荒木のブロックを「がっつり飛ぶから威圧感がある」と評する。しかし荒木自身はその「がっつり」飛んでしまうことでサイドへの移動が遅れることを北京五輪の前から課題に挙げていた。だが、北京五輪直前のワールドグランプリを機に「ボールや相手を追いすぎず、ある程度のところで、目(視点)を切ることを覚えた」。今年の5月まで1シーズン在籍した、イタリアセリエA・ベルガモでのプレー時もブロックに重点を置き、チームメートのプレーを見続けてきたと言う。自らのブロックに対するヒントやコツを得るとともに、さらに大きな視点で得られたものがあった。
「イタリアのバレーを通して外から日本のバレーを見たことで、あらためて、日本のいいところ、自分たちがすべき日本らしいバレーの大切さを感じとることができた」
 個人のブロック力に頼るのではなく、組織化されたブロックシステムを形成するためにも、荒木が果たすべき役割は大きい。キャプテンとして精神的にも重圧がかかるが、これからの経験が、選手としての成長、飛躍へとつながっていくはずだ。

 柳本晶一前監督は「竹下(佳江)、高橋(みゆき)がチームの柱」と公言してきた。では、真鍋監督は。記者から「チームの中心として、期待する選手は?」と問われると、間髪入れずに笑顔で答えた。
「代表に選んだ28名、全員です」
 さまざまな試合で戦力の足し算、掛け算を行い、試行錯誤を繰り返した後に見いだされるであろう新たな戦力、チームの形。守護神・佐野は言う。
「まだまだずっと先と思っていても、次のオリンピックまではあっという間。そのために、まず今年はベースができる年。すごく、大事な年です」
 第一歩となるワールドグランプリでは、どんな成果を得られるか。果たして、ニッポンバレーは変貌(へんぼう)を遂げることができるのか。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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