好調ソフトバンクを支える「オールスター初出場組」=鷹詞2009〜たかことば〜

田尻耕太郎

オールスター戦に初選出されたソフトバンクの(前列左から)摂津、長谷川 【写真は共同】

 ことしのプロ野球オールスターゲームに福岡ソフトバンクからは12球団最多となる8選手が選出された。12度目となる小久保裕紀や6年連続出場の川崎宗則ら常連組が名を連ねる中、半分の4人は初出場の選手たち。その彼らの活躍が交流戦連覇、さらにパ・リーグの首位争いをするチームの原動力となっている。好調の福岡ソフトバンクを支えるフレッシュな顔ぶれとは――。

パ・リーグ最強の必勝リレー

 攝津正がファン投票の中継ぎ部門1位で出場を決めた。2位に約10万票の差をつけての選出に「予想外でした」と目を丸くした。しかし、今季の活躍を見れば決して意外ではない。リーグ最多の41試合に登板し、こちらもリーグ最多となる23ホールドをマーク。リーグを代表するセットアッパーとして早くも新人王の最有力候補と言われている。
 強気な投球が魅力だ。7月20日の東北楽天戦(ヤフードーム)は、それを象徴する投球だった。8回から登板し、対する1人目の打者はこの日2本塁打の山崎武司。それでも攝津は真っ向勝負を挑んだ。直球2つで追い込むと3球目もストレート。好調の4番打者に1度もバットを振らすことなく三振を奪うと、首位打者争いを演じる草野大輔と怪力セギノールに対しても直球勝負。3者連続見逃し三振の圧巻投球だった。これだけの投手がドラフト5巡目入団というから驚きだが、春季キャンプ中にはすでに大活躍を予感していた選手がいる。川崎だった。
「最初にフリー打撃で対戦したときは普通の投手だなと思っていたんです。だけど、コントロールはいいし、何よりクイックで投げることができるのが強み。クイックで投げられると打者は間が取れない。フリー打撃のときは『打たせる投球』をわざとやっていたんでしょうね」
 攝津は初めての球宴に「普段できないような勝負をしたい」と意気込んでいる。また、福岡ソフトバンクの「勝利の方程式」からはもう一人のセットアッパーであるファルケンボーグも監督推薦で出場する。150キロ台を連発する直球と2メートルの長身から投げ下ろすフォークとカーブはどれも一級品だ。

史上3人目の「偉業」を狙う

 捕手の田上秀則はプロ8年目で初の球宴出場を果たす。その一報を聞いたときは「まさか自分がオールスターに出られるなんて思っていなかった」と誰よりも感激した。4年前、1度は野球をあきらめかけた。2005年オフに中日を戦力外になった。しかし、同じ時期に福岡ソフトバンクは正捕手の城島健司がFAで米大リーグ・マリナーズに移籍。かつてファームで本塁打王を獲得したことのある田上を「打てる捕手」の原石とした獲得したのだ。福岡ソフトバンク入団後は1軍で活躍するも、持病のひざ痛をはじめ故障にたびたび泣かされた。今季は「勝負の年」と位置づけ、減量に挑み8キロ減に成功。「負担が減ったのはもちろん、体のキレが増しました」と成果を実感する。
 6月11日の東京ヤクルト戦(ヤフードーム)で10号本塁打を放った。自身初のシーズン2ケタ本塁打達成は、チームにとっても捕手としては城島以来の記録だった。球宴2戦目が行われるマツダスタジアムでは6月6日の広島戦で本塁打を放った。この一撃は左翼スタンドの上を越える、マツダスタジアム第1号の場外本塁打となった。夢の舞台で“驚弾”を再び。そして、過去に2人(山本和範=近鉄、96年第1戦/山崎武司=東北楽天、08年第1戦)しかいない戦力外経験者のMVP獲得も狙う。

初々しい3年目の安打製造機

 4月から高打率を残し、現在も3割台をキープ。プロ3年目でブレークした長谷川勇也もまた苦労人である。1年目は左大腿骨頸部の疲労骨折でシーズンの多くを棒に振り、1軍デビューを果たした昨季は8月に試合前のバント練習でマシンのボールが誤って体付近に投じられ、それを避けきれずに左手小指を骨折した。
 今春のキャンプは2軍に相当するB組スタートだった。小指を手術したが真っすぐには戻らず、少し曲がったままになってしまったからだ。「小指は曲がったままですが、心は真っすぐに頑張ります」と威勢のいい言葉を吐いてはみたが「バットを握っても小指に力が入らない。左手は握っている感じがしない」と悩んだ。しかし、腐らなかった。「それならば、下半身をどううまく使うかを考えました」と懸命にバットを振り込んだ。すると打球は、以前よりも飛ぶようになった。打撃練習では松中信彦にも負けない大きな打球を打つこともある。「でも、僕はホームラン打者ではない」と狙うのは常にライナー性の打球。引きつけて打つことを意識し、今季の途中からは自然とバットを短く持つようになった。
 球宴には選手間投票で選出された。「僕はめちゃくちゃホームランを打つわけでもないし、足が特別速いわけでもない。一生懸命のつなぎや粘りの姿勢を認めてもらえたのかもしれない」とうれしそうに笑った。初の夢舞台は「シーズンよりも緊張するかも」と初々しさを見せる一方で「いい投手との真剣勝負を楽しんで、チャンスがあればホームランを狙っていきます」と虎視眈眈(こしたんたん)とアピールの場をうかがっている。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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