“逃げない野球”で打倒・米国へ=全日本・榎本監督に聞く日米大学野球見どころ

島尻譲

大学野球の新たなる発展、転換期

2010年まで大学全日本を率いる榎本監督(中央、写真は関西オールスター5リーグ対抗戦でのもの) 【島尻譲】

「大役に心身が引き締まる思い」
 1月末の監督会で全会一致。2月の理事会で正式に大学全日本監督就任(2009、10年)が決まった榎本保監督(近大)はそう語る。それは関西を含む地方リーグの指揮官として、初めて全日本の監督を務めるということもある。
「私がどうだとか、近大がどうだとかではなく、大学野球界の新しい道筋になるとも思っていますから」
 現在、大学野球の話題の中心は斎藤佑樹(早大)や東浜巨(亜大)らであるが、近年は地方リーグの躍進も目覚ましく、全国大会で上位に食い込むことも非常に多い。
「大学野球の新たなる発展、転換期であると受け止めています」
 そのような責任と重圧を感じながら、まずは近大を春のリーグ戦で優勝に導き、「自分のチームを勝たせたら周囲も納得するでしょう。で、今はジャパンでやったろうやないかい!」と意気込んでいる。

悩みに悩んだメンバー選考

 7月12日から開催される第37回日米大学野球選手権大会は全5戦。坊ちゃんスタジアム(愛媛)を皮切りに東京ドーム(東京)、クリネックススタジアム宮城(宮城)、鶴岡ドリームスタジアム(山形)、神宮球場(東京)で日米の有望選手たちが熱い火花を散らす。日本代表メンバーは6月20〜22日の選考合宿を経て決定されたが、急造チームであることを榎本監督は否定しない。
「各リーグの推薦や大学選手権で活躍した選手たち。力があるのは分かっているけれど、3日間の短い合宿では出来、不出来もありますしね」
 特に投手に関しては頭を悩ませたとのことで、リーグ戦や大学選手権の疲労を考慮し、将来も考えてメンバー入りさせなかった選手もいるという。また、捕手の枠も2にするか、3にするか最後まで迷った。ただ、今大会だけでなく、来年の世界大学選手権大会も見据えた選考をした。今回、代表入りできなかった補欠メンバーにも準備を怠らないようにと伝えてある。
「本当はリーグ戦の日程の空いている時に他リーグの選手たちを自分の目で確認したかったんですけど……今春、関西ではインフルエンザ騒動がありましたから。私が足を運ぶことで迷惑が掛かるので断念せざるを得なかった。今後は選考合宿だけでなく、自分の足でも情報を稼ぎたいですね」
 と、メンバー選考に関して考えている。

「センターポールに日の丸を揚げますよ」

 現時点で米国代表がどのようなチームだか分からないとのことだが、榎本監督は“逃げない野球”を掲げる。米国代表のパワーはいくら口で伝えても、選手たちが肌で感じることだと前置きして、対抗するには積極性に勝るものはない、と榎本監督は力説。中田亮二、中原恵司(ともに亜大)ら一発を期待できる選手もチームに名を連ねるが、限られたメンバー選出の中で機動力のある選手を数多くピックアップした。
「野球のセオリーはセオリーであるけれど、国際大会のセオリーには当てはまらないこともある。僕がサインを出さなくても走れ! 選手たちにはそう伝えています。アウトになったら、僕の責任やって。逃げたらやられる、勇気は生まれない。そういう大会になると思っています」
 また、投手起用に関しては、「色々とインターネットとかでも話題は出ているようですが(笑)。僕の中でローテーションと役割はもう決まっています。短期決戦で僕は2戦目が重要やと考えているので、そこに注目して欲しいですね」
 さらに、審判のジャッジや天然芝球場での戦い方の持論も展開。前述したように来年の世界大学選手権も想定した中期的なチーム編成であるが、「最低でも3勝して、絶対、アメリカに勝ちたい。センターポールに日の丸を揚げますよ」とこれから幕を開ける日米大学野球での奮闘を誓った。

<了>

■榎本保/Tamotsu Enomoto

1955年4月11日生まれ。和歌山県出身。右投両打。新宮高−近大−近大職員。
父・俊明が元幕内力士(高砂部屋・三浜洋)ということもあり、小柄ながらも高い身体能力に恵まれた遊撃手であった。近大時代は2年春からベンチ入りして、守備とバントのスペシャリストとして活躍。近大卒業後は近大職員に。寮長やコーチ補佐を経て、審判員も経験。「いろいろな角度から野球を見られるように」と、名将といわれた故・松田博明監督の秘蔵っ子として指導者の英才教育を受けた。コーチ時代の2000年には春秋のリーグ戦制覇、大学選手権、神宮大会、アマチュア王座を制し、五冠の快挙を達成。01年から近大の監督に就任し、チームを11度(2度の4連覇)のリーグ制覇に導き、プロ・社会人球界にも数多くの有望選手を輩出。09、10年の大学全日本代表の監督を務めることが決まっている。
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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