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石川直宏、プロ10年目の覚醒
ゴール量産を支える“積み上げの美学”

今季8ゴール目を挙げて脚光を浴びる石川

今季8得点で日本人得点ランキングトップに立つほど絶好調の石川
今季8得点で日本人得点ランキングトップに立つほど絶好調の石川【後藤勝】

「石川直宏こそ、積み上げ以外の何ものでもないよね」

 今年の冬、長澤徹FC東京U−15深川監督に、こう言われたことを覚えている。


 長澤が見つめてきた選手は、10代からスターダムにのし上がるスタープレーヤーとは対極的な苦労人ばかりだ。加地亮(G大阪)、福田健二(イオニコス)、呉章銀(蔚山現代)、マルセロ・マトス(パナシナイコス)、宇留野純(熊本)、古橋達弥(山形)……。石川も早くから年代別代表に名を連ねてはいたが、A代表選考レースからは早々に外れ、そればかりか、所属のFC東京でもベンチ外の危機を味わい続けてきた。

「10年続けなければプロとは言えない。続かなかったらアルバイトだ」

 それは長澤の口癖であり、石川もさんざん聞かされてきたことだ。


 その石川がプロデビュー10年目の今年、J1ゴールランキングの日本人トップ(8ゴール=7月1日現在)に立ち、脚光を浴びている。これを積み上げの結果と言わずして、なんと言おうか。

 もちろん周囲は、これを突然変異ととらえるかもしれない。いつまでこの調子が続くのか、訝(いぶか)しむ人もいるだろう。あるいは何か特別なきっかけがあって、打ち出の小槌(こづち)のようにゴールを量産できるようになったのだと、結論づける人も多いはずだ。

 8ゴール目を記録した第15節清水エスパルス戦(6月27日、2−1)の試合後、報道陣は「特別なきっかけ探し」にかまびすしかった。公式記者会見では、城福浩監督へ石川に関する質問が飛ぶ。城福監督は「個人への評価は口にしないことにしている」と前置きしつつ、このように答えた。


「おそらくナオ(石川)は今まで、タッチラインを踏むようなところで力を出す、そういう歩みをしてきた」

「現在、われわれが目指しているサッカーは、ボールを主体的に動かすもの。誰でも出て行くことができ、中でもプレーできる。石川に限らず、アタッキングサードで自分の特徴を出す頻度が高くなる」

「(石川が得点を挙げている理由は)チームがやろうとしていることができているのと、彼の努力でしょう」

「特別なことは何もしていないんです」

 一方、決勝点を挙げて得点ランキング2位タイに浮上した主役の石川は、大勢のペン記者に囲まれた後、テレビメディア3局のコメント録りをこなした。

 石川はそれぞれの取材に対し、真摯(しんし)に原因らしきものについて答えていた。ある瞬間、城福監督の談話を肯定するように、ポロッと核心を口にした。

「特別なことは何もしていないんです」


 今季初得点となった国立の第6節ジェフユナイテッド千葉戦(4月18日、1−2)で決めたスーパーゴール(と言っても、今季のゴールはスーパーなものばかりなのだが)は、直前の練習が生きたというわけではない。そのようなシュート練習は以前からやっていた。だから特訓の成果ではない。城福監督の言うように、不断の努力が生んだ結果であるはずだ。そして積み上げてきた時間経過の中のどこかに、特訓以外の、ブレークスルーの要因が潜んでいるに違いない。それは何か。


 決して、単に好調になったから、たまさかゴールを量産できている、というわけではない。石川はここ2年ほど、ずっと好調だ。大きなけがもなく、内面がすごく充実していることが手に取るように分かるほどに。本人に尋ねても「調子がいいんですよ」と、小平(FC東京の練習場)に足を運ぶたび、いつも景気のいい答えが返ってくる。ただ、分かりやすい結果がついてこなかった。


 石川は言う。

「確かに、この数年好調だったけれども、ぼく個人としては好調でも、うまく力を使えていなかったと思うんですよ。チームの歯車には、かみ合っていなかったかもしれない。いまは効率よく、違う部分──チームプレーをスムーズに行うために使えている。力をセーブして周りの選手を生かせているし、周りがうまくタイミングを計ってくれる。

 以前は単独で突破するか、加地くん(05年までFC東京でプレー)とのコンビで攻めるプレーに偏りがちでしたけれど、今では、よりゲームの流れを感じながらやれている。それがプレーに表れてきたと思うんです」


 使われるだけでなく、他者を使うようになった。単独プレーにとどまっていたものが、連動するようになった。そういう変化が、今の石川のプレーにはある。

後藤勝

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWeb/メールマガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」(http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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