第4回 現地領事が語る、南アでの危機管理=宇都宮徹壱の日々是連盟杯
プレトリアの在南ア日本大使館へ
在南アフリカ共和国日本大使館の新保剛領事。われわれの質問に対して、真摯(しんし)に答えていただいた 【宇都宮徹壱】
とはいえ、この日は試合はない。目的地はプレトリアの在南ア・日本大使館。同じホテルに宿泊している友人のアレンジメントのおかげで、現地大使館の領事に話を聞く機会に恵まれた。邦人保護の観点から、大使館にはさまざまな情報が集まっているのは周知の通り。当然、来年のワールドカップ(W杯)開催に関して、われわれファンにとって有益な情報を持っているはずだ。そこで不肖・私がファンを代表して、本大会に向けて気になる点をいろいろと質問しようと思った次第である。
日本大使館があるのは、ロフタス・バースフェルド・スタジアムからほど近い閑静な住宅街。重々しい巨大な鉄の門の向こう側に、光輝く菊の紋章が見える。高い壁の上には7000ボルトの電流が走る鉄線が張り巡らされ、あちこちに監視カメラが設置されている、何とも物々しいセキュリティーシステム。周囲は一見すると平和な住宅街なのだが、あらためて当地の治安の悪さを思い知らされる。われわれを出迎えてくれたのは、一等書記官兼領事の新保剛さんをはじめ総勢4人。海外の大使館を訪問するのは初めての経験ゆえ、こちらも緊張して大使館の門をくぐったわけだが、皆さん実に丁寧な物腰で迎えていただいたので、こちらもかえって恐縮してしまった。
雑談や情報交換(大使館側も、われわれが持っている情報を知りたがっていた)を交えた取材は、およそ1時間半続いた。その中で、特にW杯観戦に関する注意事項を含んだ内容を、以下、一問一答形式で再現する。実際には、われわれの質問に対して4人の大使館員が代わる代わる答えていただいたのだが、誰が質問して誰が回答したのかはあえて明記せず、シンプルに再構成したことをあらかじめお断りしておく。
強盗に遭遇したら、とにかく騒がないこと
「残念ながら、そうは言い切れないですね。先週の火曜日(16日)、ポート・エリザベスで、こういう事件がありました。ネルソン・マンデラ・ベイ・スタジアム(本大会の会場のひとつ)でラグビーの試合(ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ対サザンキングス)がありまして、試合後に英国から来たファンが、スタジアムに併設されていたスポーツバーで飲んでいたところを武装した強盗集団に襲われています。すでにセキュリティー体制が解除された後で、犯人側はそのタイミングを狙っていたようです」
――サッカー、とりわけW杯では、勝っても負けても試合後に飲んで騒ぐというのはファンの本能です。来年は、そうしたことができないのでしょうか?
「試合が終わったら、まっすぐホテルに戻ってから楽しんでいただくことを強くお勧めしますね。特に、夜の試合の帰り道は注意が必要です。スタジアムのおよそ半径2キロ以内はセキュリティーが確保されていますが、そこから先は『責任が負えない』というのが(主催者側の)考え方の基本としてあります。ですから、どうしてもそこで“自己責任”という部分が出てきてしまうわけです」
――特に日本人が狙われやすい、ということはあるのでしょうか?
「まあ、目立ちますからね。実際、去年も在留邦人を含めて23件の事件が報告されています。幸い、ここ14〜5年、殺人に至ったケースはありませんが。ただ一方で、中国人と間違われて、犯罪に巻き込まれるケースも少なからずあるようです。こちらでは出稼ぎで中国から来ている人が結構いて、彼らは銀行にお金を預けずにタンス預金にする傾向が強い。だから強盗のターゲットにされやすいんですね」
――万一、強盗に遭遇してしまった場合、どう対処すべきでしょうか?
「とにかく騒がない、抵抗しない、無抵抗を貫くこと。騒いでしまったことで、邦人がけがをしてしまった事例があります。携帯電話を奪うために、銃を発射することもためらわない世界なんです。そういう危険が常に潜んでいることは理解していただきたいですね」