第2回 劇的な幕切れ(6月21日@プレトリア)=宇都宮徹壱の日々是連盟杯2009
威圧感でもなく、切なさでもなく
プレトリアのロフタス・バースフェルド・スタジアムにて。笑顔で話しかけてくるボランティアスタッフ 【宇都宮徹壱】
ホテルであれ、ショッピングセンターであれ、スタジアムであれ、現地で触れあう人々は決まって黒人である。もちろん、人口の8割近くを黒人が占めているのだから、当然といえば当然なのだが、日常的に黒人の人々と接する機会が限られている人間からすると、実に新鮮な気分だったりする。と同時に、アフリカにおける黒人は、北米や欧州で暮らす黒人と比べて、何かしら持っている雰囲気が違うような気がしてならない。
以下、あくまで個人的な経験に基づいて、その理由を述べる。
今年の春、3週間ほど米国とカナダを取材した際に気がついたのが、セキュリティ―関連の仕事に従事する黒人が非常に多かったことである。オフィスであれ、美術館であれ、商業施設であれ、きまって目を光らせているのは男女問わず黒人の人々であった。ゆえに、そんな彼らに対しては、妙な威圧感を常に感じていたものである。
一方、ヨーロッパで出会う黒人の場合、圧倒的に多いのがアフリカやカリブ海地域からの移民、およびその子孫たちであり、その多くが清掃や工事など肉体労働に従事していた。黙々と働く彼らの表情からは、人生の厳しさばかりが感じられ、何とも切ない気分にさせられたものである。
威圧感、そして切なさ。私にとっての黒人観は、とどのつまり、そのふたつしかなかった。ところが北米でも欧州でもない、アフリカに暮らす黒人からは、そのいずれの感覚からも異なる、ある種独特な雰囲気が感じられる。より具体的に言うならば、当地の黒人は、とにかく親しみやすく、大らかで、そして明るいのである。道を歩いていて、すれ違いざまに目が合うと、とたんにニッコリとほほ笑みかけてくる。こちらがカメラを持っているのが分かると「ねえ、撮ってよ」とばかりにポーズをとる。レンズを向けると、文字通りの破顔一笑。これほど撮っていて楽しくなる被写体も、そうないように思える。
当初は、おっかなびっくりで乗り込んだ南ア。それが、現地の人々の人懐っこい笑顔に日々触れていると、「怖い」とか「危ない」といったネガティブなイメージが、ガラガラと瓦解していくのを実感する。何かと前途多難が指摘されている来年のワールドカップ(W杯)南ア大会だが、少なくともホスト国の人々のホスピタリティーについては、十分に高いレベルに達しているのではないだろうか。
突破するのはイタリアか、エジプトか、それとも……
前回W杯王者と南米王者による対戦とあって、この日のチケットはソールドアウト。昨夜は“バファナ・バファナ”(南ア代表の愛称)の準決勝進出に狂喜していた地元ファンも、やはりイタリアとブラジルを生で見てみたいという気持ちは強いらしく、両チームがピッチに登場すると割れんばかりの歓声が場内を包みこんだ。スタンドのあちこちでイタリア、ブラジル国旗が振られているところを見ると、両チームのサポーターもかなりの人数が、ここ南アにやってきているようだ。前夜見た、グループAのイラク対ニュージーランドに比べると、やはりスタジアムの盛り上がりには雲泥の差が感じられる。
あらためて、このグループのおさらいをしておこう。
当初、ブラジルとイタリアが順当に抜けると思われていたグループB。だが、ここで波乱を起こしたのが伏兵エジプトであった。初戦ではブラジル相手に3−4という派手なスコアで惜敗し、続くイタリア戦では前半40分の先制点を守り切って世界王者に歴史的勝利を収めた。この結果、2試合を終えたグループBの順位は、1位ブラジル(勝ち点6)、2位イタリア(同3)、3位エジプト(同3)、4位米国(同0)となった。
数字上では、4位の米国にもグループ突破のチャンスはあるものの、実質的にはイタリアとエジプトの2位争いが有力である。イタリアはエジプトに対し、わずかに得失点差1で上回るものの、グループ突破を確実にするためには、このブラジル戦での勝利が必須となる。すでに引き分けで十分のブラジルだが、チームを率いる闘将ドゥンガに「妥協」の2文字はないはず。そんなわけで前日に引き続き、裏の試合の状況を記者席のモニターで確認しながら、目前のゲームを注視することとなった。