ソフトバンク、互いの信頼が生んだ交流戦連覇=鷹詞2009〜たかことば〜

田尻耕太郎

「SBM」が最大の勝因

 16日、福岡ソフトバンクが史上2チーム目の交流戦連覇を達成した。21試合で16勝4敗1分。まだ3試合を残しての独走劇だった。

 最大の勝因は、絶対的な「勝ちパターン」を持っていたことだ。14日の巨人戦(ヤフードーム)で今季初完投をマークした杉内俊哉はこう話していた。
「ウチには7、8、9回を抑えるピッチャーがいる。(それまで完投がなかったのは)僕の中に『6回まで抑えれば』という甘えがあったのかな」
 WBC代表左腕にここまで言わせるリリーフ陣。7回はルーキーの攝津正、8回はブライアン・ファルケンボーグ、9回は馬原孝浩が福岡ソフトバンクの誇る「勝利の方程式」だ。ここ最近、地元メディアなどからはそれぞれの頭文字をとって「SBM」と呼ばれている。くしくも親会社の関連事業である携帯電話会社の略称と同じ。「ホークス応援隊長」で、CMで人気の「お父さん」も喜んでいるとか……。

 それはさておき、やはり交流戦連覇は「SBM」抜きでは語れない。攝津と馬原は半分以上になる12試合に登板。ファルケンボーグも11試合に投げている。交流戦期間中、先発の台所事情は苦しかった。5月下旬に和田毅が左ひじに違和感を覚えて離脱。6月3日には大隣憲司が交通事故に巻き込まれるアクシデントにより1軍を外れた。杉内や、来日2年目のホールトンは安定した投球を続けていたが頭数は足りない。この状況の中で藤岡好明やジャマーノが先発し連勝。救世主となった。ただ、彼らは完投能力に乏しい投手。リリーフ陣を信頼してマウンドに上がれたことが勝利に大きくつながった。

投手と野手に生まれた信頼

 信頼は、投手と野手の間にも生まれた。交流戦前までは17勝20敗1分でリーグ4位タイ。打線の低迷が足を引っ張っていた。しかし、交流戦に入ると一気に活性化。特にここ数年の悩みだった長打力不足が解消した。開幕から38試合で22本塁打だったが、交流戦21試合では23本塁打(12球団中3位)を放った。特に覚醒したのが捕手の田上秀則だ。5月31日の中日戦(ヤフードーム)で左越え弾を放つと、そこから5カード連続で本塁打をマーク。6月11日には自身初となる10号。チームとしては城島健司以来の捕手の2ケタ本塁打。城島の移籍から4年、待望の打てる捕手がようやく誕生した。

 また、故障者たちの復帰も大きかった。5月22日には多村仁志と村松有人が1軍昇格。6月5日には開幕戦で右手甲を骨折した松田宣浩も戻ってきた。松田は開幕戦では3番を打っていたが、復帰後は7番や8番など下位に座ることが多い。その3番には、途中加入で大きな戦力となっているオーティズが座る。さらに打率3割台をキープし続ける長谷川勇也の存在も大きい。
「今の打線ならば2、3点は取ってくれると信じて投げている」(杉内)
 福岡ソフトバンクは「先行逃げ切り」が勝利パターンだったが、6月は8勝中4勝が先制点を許しながらの逆転勝利だ。

交流戦Vで気になる“ジンクス”

 強さを見せた交流戦。気になるMVPは……、まったく分からない。昨季のMVP・川崎宗則は「みんながそれぞれ自分の仕事をした。みんなの力で優勝できた」という。そして見事に初タイトルを手にした秋山幸二監督も「みんながよく頑張った」と選手全員の頑張りをねぎらった。
 交流戦はシーズンの大きな分岐点。「交流戦で優勝すればリーグ戦も……」。05年の千葉ロッテ、07年の北海道日本ハムは交流戦優勝の勢いに乗って、パ・リーグを制した。しかし、昨季の福岡ソフトバンクはその波に乗れなかった。最近、選手たちも自らそんな言葉を口にしている。ただ、それは悲観的ではない。あくまで冗談。笑ってそんな話ができるほど、チームの雰囲気はいい。
「交流戦の優勝は間違いなく弾みになる。まだ大きな目標の戦いが残っている。1つ1つ大事に戦っていきたい」(秋山監督)
「去年の二の舞にならないように、精一杯気を引き締めて頑張ります」(松中信彦)

 ちなみに、1つジンクスを語るならば、昨季の福岡ソフトバンクは15勝9敗での交流戦優勝だったが、05年の千葉ロッテと07年の北海道日本ハムはいずれも貯金10以上をキープしての優勝だった。現在、貯金は12。残り3試合もまだ見逃せない。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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