法大を日本一に導いた全員野球=第58回全日本大学選手権・決勝リポート

矢島彩

土壇場で逆転した全員野球で頂点

14年ぶり8度目の優勝を決めた法大 【島尻譲】

【法大 5−1 富士大】

 強い法大が帰ってきた。14年ぶり8回目の日本一だ。7回まで1安打に抑えられていたが、土壇場で試合をひっくり返す劇的な勝利だった。ラスト2イニングで選手が6人も交代。そのうちの1人が決勝点を挙げた。正真正銘、全員野球で頂点に立った。

 試合の決着は、意表を突いたものだった。同点で迎えた9回表。無死一、二塁で佐々木陽内野手(3年=作新学院高)は、初球を送りバントの構えからファウル。次の瞬間、法大ベンチが一気に動き出した。
「初球失敗して、自分に来るんやないかなと思った。早く出してほしいじゃないですけど、そんな気持ちでした」
 ベンチの一番隅で声を出していた大八木誠也内野手(3年=平安高)。金光興二監督はすぐに大八木を呼んで、準備をさせた。

勝ち越しタイムリーの大八木は自分の判断でバスター

9回に勝ち越し2点タイムリー二塁打を放った大八木 【島尻譲】

「一塁手と三塁手が前に出てきたら、自分の判断でバスターにしてもいいですか?」
 大八木は金光監督に問い掛けた。
「任せました。大八木はミートがうまい選手。バントもバスターにも対応できるんです」(監督)
 案の定、勢いよく前進してきた一塁手を見て、バスターへ切り替え。打球はセンターへ抜ける決勝タイムリーになった。送りバント失敗後の代打だ。富士大・青木久典監督の頭には、もちろんバスターという選択肢はなかった。
「あそこでバスターとは……。やられたなあと思いました。いい勉強になりました」

 さらに、大八木が打席に入るまでの時間も嫌がった。地方リーグは試合のスピードアップが当然。今回の選手交代は時間がかかり、やや遅いと感じていた。ただ、大八木は「手袋とか何にも準備していなくて、早めにやっていたんですけど」とのこと。青木監督は「法政さんは試合巧者でした」と、唇をかみ締めた。

同級生の活躍に並々ならぬ刺激

 大八木は守備固めでの出場が多かった。だが、リーグ戦で優勝を決めるサヨナラ弾を放った今井諒外野手(3年=履正社高)、今大会スタメン出場している松本哲郎外野手(3年=桐光学園高)や亀田健人内野手(3年=智弁和歌山高)ら同級生の活躍に並々ならぬ刺激を受けていた。
「毎晩寝る前に“俺は何やってるんや!”と考えたり、ずっと今度は自分が活躍したいと思っていた」

 性格がやや控えめの4年生に対し、3年生は負けん気の強い個性的な選手が多い。そんな3年生も今日は「まだ1安打。追い込まれてきた」と不安を募らせていたという。
「石川さん(修平捕手=小山西高)や亀谷さん(信吾外野手=中京大中京高)や4年生が全然あきらめていなかった。日本一を取るために戦っているんだと言ってくれた。試合を決めるヒットを打ててうれしいけど、4年生に感謝です」

流れを呼び込んだエース・二神

今大会MVPを獲得したエース・二神 【島尻譲】

 逆転劇を呼び込んだのは、エース・二神一人投手(4年=高知高)だ。1点ビハインドの6回から登板し、最速148キロのストレートを中心に、4イニングを投げて被安打1。
「今日のような試合は、ワンチャンスで流れが変わる。追いついて、追い越してくれることを信じていた」
 最後の打者以外は、3球目までで2ストライクに追い込んでいる。富士大の攻撃時間を短くし、リズムをつくった。金光監督は「先発した三上(朋也投手=2年・県岐阜商高)、二神が踏ん張ってくれたおかげ」と、目を真っ赤にしていた。二神は全4試合に登板し、3勝、防御率0.75。堂々のMVPと最優秀投手賞のダブル受賞を果たした。

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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