富士大旋風の主役・守安が見せた“迷い”=第58回全日本大学選手権・決勝リポート

スポーツナビ

命取りとなった不用意な1球

勝ち越し打を浴び、肩を落とす富士大・守安 【島尻譲】

【法大 5−1 富士大】

 低めに、ていねいに変化球を投げ続けた。何度か、芯に当てられる場面もあったが、その度に打球は野手の正面を突いた。守安玲緒(4年=菊華高)は、「うまくいきすぎ」と本人も驚くほどの投球を続けていた。打線も5回、1死三塁から主将・夏井大吉(4年=花巻東高)が先制のタイムリー。守安の奮闘に応えた。富士大(北東北大学)にとって、中盤までの戦いぶりは、申し分のないものだった。

 しかし、守安は「いつか流れが向こうに行く」と常に考えながら投げていた。出来過ぎの試合展開が、かえって不安だった。その不安が現実のものとなったのは、1対1で迎えた9回の法大の攻撃だった。
 無死一、二塁から5番・佐々木陽(3年=作新学院高)の初球バントがファウルになり、1ストライクで打席に送られた代打・大八木誠也(3年=平安高)も送りバントの構えを見せた。勝ち越し点を奪うために、走者を三塁に進めてくると富士大は考えていた。しかし、大八木は青木監督が「まったく頭になかった」というバスターを敢行。「外そうかどうか迷った」(守安)というストレートは、迷った分だけ甘く入り、右中間にはじき返された。
 この場面、守安の球数はすでに110を超えていた。「腕の張りとかはそうでもなかったけど、疲れは残っていました」と本人も言うように、疲労は蓄積されている。そんな中で迎えた同点の最終回。早く1アウトを取りたいという投手心理が働いたはずだ。不用意な1球が、守安と富士大の命運を断った。
 守安はこの1球を「打たれていい経験になった」と振り返る。勝負どころで一瞬見せた“すき”が命取りになると学んだ。それは、今後の守安にとっても大きな財産になることだろう。 

優勝と準優勝を分けた“2番手”の存在

守安は1回戦から全試合に登板。4勝を挙げチームを決勝に導いた 【島尻譲】

「彼がいたおかげでここまでこれた。代えるつもりはなかった」
 富士大のブルペンには、勝ち越されるまでリリーフ投手の姿がなかった。青木監督は、守安にすべてを託した。エースが打たれるなら仕方がないというさい配は、納得のいくものだ。
 だが、1回戦と2回戦の間に休養日が入ったとはいえ、4試合3完投の守安を先発で使わざるを得なかったことが、優勝と準優勝を分けた。守安も「エースが出てきて、これはもう点が入らないんじゃないかな、と思った」というように、法大はエース・二神一人(4年=高知高)をリリーフに回すことで流れを引き寄せた。エースに続く“2番手”の存在。それが富士大を含めた地方の大学の課題である。

  青木監督の言葉を借りるまでもなく、富士大の快進撃を支えたのは、間違いなく守安だった。初戦から徳山大(中国地区大学)、佛教大(京滋大学)を連続完投で下すと、続く近大(関西学生)戦では好救援で勝利投手になった。そして、準決勝では創価大(東京新大学)・岸雅司監督を脱帽させた快投で3安打完封。この日の決勝も、敗れたとはいえ9回を投げ切った。まさに八面六臂(ろっぴ)の働きだった。
 その活躍が認められ、試合後の表彰式では敢闘賞に選ばれた。「敢闘賞、富士大学・守安玲緒投手」のアナウンスが流れると、スタンドは大きな拍手に包まれた。
「リーグに加えて東北地区の予選(代表決定戦)もある。大変だけど、またこのマウンドに帰って来たい」
 神宮に強烈な印象を残した背番号18は、秋には優勝投手として拍手を受けるつもりだ。

<了>
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