東京六大学にまたも敗れた関西国際大が得たもの=第58回全日本大学選手権・準決勝リポート

島尻譲

3年連続東京六大学には負けないという強い意気込み

【法大 5−2 関西国際大】

 3年前の大学選手権決勝戦、大体大は青山学院大に7対6と競り勝ち、初めて阪神大学リーグに優勝旗を持ち帰った。関西地区では近大と関大しか大会制覇の実績がなかっただけに歴史的な優勝であり、阪神大学リーグにとっても大きな財産となった。
 その翌年から関西国際大は阪神大学リーグの優勝校として大会にコマを進めている。初出場となった2007年は当時3年生の榊原諒(現北海道日本ハム)と伊原正樹(現オリックス)のWエースを擁しての参戦。八戸大を2対1で破り、全国大会初陣を白星で飾った。続く準々決勝では、同大会優勝校となった早大に3対16と完膚なきまでに打ちのめされた。08年は榊原と伊原の二本柱に加えて、経験を積んだ野手陣によりチーム力は増した。1回戦・道都大を3対1で下し、2年連続勝利。だが、2回戦では明大に辛酸を舐めさせられた。スコアこそ1対3だったが、岩田慎司(現中日)のピッチングに手も足も出なかった。

 そして、榊原と伊原が卒業して、新体制で臨んだ今春のリーグ戦。リーグ戦中盤に大体大に2連敗して、3年連続の大会出場に黄信号が灯ったが、レギュラーメンバーや打順を組み替えたことが大きな刺激となった。崖っぷちから6連勝。大産大とのプレーオフを制して、関西国際大は3年連続3度目の全国大会出場を果たしたのである。
 そのような苦しい戦いの中で成長して来た関西国際大は今大会、前年に引き続き1回戦で道都大を9対0(7回コールド)と下した。2回戦では2年連続準優勝の実績を誇る本家・東海大を破った東海大海洋学部に11対2(7回コールド)と大差を付けた。そして、準決勝で対戦することになったのは法大。日本一という目標に突き進むのと同時に、3年連続で東京六大学リーグの代表校に屈してなるものか、という意気込みが強かったことは言うまでもない。

悔しさの中にも確かな手ごたえをつかんだ今大会

 法大との戦いは中盤まで接戦だった。1点を追いかける3回表1死一、三塁から田中聡祐(4年=西脇工高)のセカンドゴロの間に同点とすると、1対3の7回表には田中聡のセンター前タイムリーで1点差に詰め寄った。プロからも注目されている法大のエース二神一人(4年=高知高)に臆することなく立ち向かった。しかし、直後の7回裏、2死一、三塁から松本雅俊(4年=関西高)に2点タイムリー二塁打で突き放され、試合は決した。

「悔しいですね。勝てる試合だったとは言いません。だけど、過去2年と比べても勝てる可能性がある試合でした。だから、ホンマに悔しいです。昨年までは力の差があり過ぎて悔しくもならんかったですから」
 PL学園高時代の全国制覇の中心メンバーで、駒大でも首位打者を獲得するなど活躍し、社会人野球・神戸製鋼(廃部)でも都市対抗10年連続出場表彰を受けるなどの輝かしい実績と経験を持つ関西国際大・鈴木英之監督。快活に報道陣の質問に答えながらも、何度も「悔しい」を繰り返した。
「こうすれば得点できる、こんなミスをすると失点するということが選手たちも分かったはず。手ごえたえはつかめましたよ。惜しかったとはもう言われたくない。勝たなくちゃ」
 試合中盤までの展開に過去2年とは違う成長を感じた鈴木監督は、次こそ東京六大学リーグの代表校を攻略したいと語った。

 選手たちも同様の思いだ。
「中盤までは粘れたと思うし、力負けしたとも思っていません。全国大会で勝負できる自信は付いた。ウチ(阪神大学リーグ)のどこが代表校でもそれは変わらない」
 1番としてチームをけん引した田中聡は、打倒・東京六大学リーグは遠くないことを確信しつつ、近い将来に全国の頂点を狙えることを実感していた。

<この項は島尻譲>

1年生ながら3番に座り、4安打3打点の活躍を見せた多木 【島尻譲】

◇ ◇

■自慢のバットコントールで4安打の法大ルーキー・多木(09.06.13)

 右へ、左へ、センターへ。1年生でながら、リーグ戦で打率3割4分1厘、12打点の好成績で東京六大学のベストナインを獲得した法大期待のルーキー・多木裕史(坂出高)が面白いように安打を重ねる。しかも、第1打席は先制打、同点に追いつかれた第2打席は勝ち越し打。さらに5回にはイレギュラーバウンドで打球が大きくはね上がるというツキも味方し、中押し打と3打席連続のタイムリーを放った。さらに4打席目にもヒットを放ち、この日は4打数4安打3打点。金光興二監督が「1年生らしからぬ活躍だった」と目を細める大活躍だった。

 多木の武器は、関西国際大(阪神大学)の先発・田島康平(4年=市和歌山商高)が「年下には打たれたくなかったんですけど……。うまさを感じました」と舌を巻く類まれなバットコントロールだ。「大学に入ってからスイングが速くなりました。バットを軽くしたこともあるけど、(バットを)最短で出すようにしました」とリーグ戦から結果が出ている要因を分析する。そして、「チャンスで回ってきたので、『打ってやろう』と思いながら打席に入った」という強い気持ちもこの日の結果につながった。

 力を発揮できているのは、周りの配慮も大きい。守備が苦手な多木に、チームメートは「エラーは3つまでなら許す」と声をかけ、金光監督も「(打撃を生かす)彼のスタイルでやればいい。結果は気にしなくていい」と盛り立てている。
 そんな周りの気配りには、得意の打撃で応えるつもりだ。
「日本一に貢献したい」
 強い口調でそう誓った多木は、自慢のバットコントロールを武器に、決勝でもヒットを積み重ねる。

<この項はスポーツナビ>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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