快進撃の富士大、決勝で青木監督の母校に挑む=第58回全日本大学野球選手権・準決勝リポート

矢島彩

夢にも思わなかった決勝進出

男泣きの青木監督(左端)に声をかける富士大ナイン 【島尻譲】

【富士大 2−0 創価大】

 神宮にも花巻旋風だ! 富士大が北東北リーグとして初の決勝進出を果たした。
「何泣いてるんですか! 早いですよー!」
 試合終了後、青木久典監督が選手の前で男泣きした。
「1戦やるごとにたくましくなって…。選手たちはすごい」
 富士大へ来て5年目。三重高から法大(東京六大学)へ進学し、北海道日本ハム・稲葉篤紀外野手と副主将を務めた。4年秋には実に11季ぶりのリーグ優勝を味わった。
「決勝戦で母校と戦えるなんて、夢にも思わなかった。不思議な感じがします。今の自分があるのは法政での4年間があったから」

 社会人野球・拓殖銀行時代に18才先輩の法大・金光興二監督と知り合った。以降、交流は深まり、富士大の監督に就任してからも毎年オープン戦を組んでいる。今春はエース・守安玲緒投手(4年=菊華高)が1失点完投し、3対1で勝った。
 守安投手は今大会3完投。13日の創価大(東京新大学)戦も、自信のある制球力を生かし、高低を使った投球術で狙い球を絞らせず、自己最速の145キロもマークした。
「全国優勝を目標にやってきた。でも、正直勝つごとに“あれ? あれ?”という感じなんです。ベンチも負ける雰囲気がない」(守安)
 試合前、青木監督はいつも選手たちがリラックスできるよう心掛けているという。この日は「力は持っているんだから、思い切りやれ。守安も投球術があるんだから」と、励ました。
「例えば、打つほうは10回に7回は失敗するものなんです。それなのに変なプレッシャーをかけたら持っている力を引き出せない。プラスに、プラスに持っていけるようにしています」

「監督さんに恥をかかせるわけにもいきません」

 初回、レフトの濱川皓外野手(4年=育英高)が大きな飛球をファウルゾーンで好守。チーム全体の雰囲気が一気に明るくなった。その後、濱川外野手は2度も好守備を見せた。青木監督の言葉を借りれば「ノリに乗っていた」。富士大の流れができ上がった。
 大会前、花巻市へ表敬訪問。今春のセンバツで花巻東高が準優勝していることもあり、大石満雄市長からは「ことしは花巻の年」と激励された。
「自分たちは東京六大学のチームに挑戦するだけ。(法大出身の)監督さんに恥をかかせるわけにもいきません」(守安)
 泣いても笑っても最後の試合。チームのトレードマークでもある「笑顔」で終えるつもりだ。

<この項は矢島彩>

エース・大塚を投入し、反撃の糸口をつかみたかった創価大だったが、無念の完封負けを喫した 【島尻譲】

◇ ◇

■創価大・岸監督、すがすがしく相手のエースを称える(09.06.13)

 敗戦の直後にもかかわらず、創価大・岸雅司監督はすがすがしかった。わずか3安打に抑えられての完封負け。厳しい言葉が出てくるかと思いきや、口をついたのは、相手エース・守安への賞賛だった。
「流れを変えようと思って、大塚(豊・4年=創価高)を投入した。普通、浮き足立つものだけど、たいしたものだね」
 0対1でリードを許した5回、前日まで3連投3完投のエースをマウンドに送った。守安に「もうなかなか点が入らないな」と思わせることでプレッシャーを懸け、反撃の糸口にしようという狙いだった。だが、思惑は外れ最後まで打ち崩せなかった。
 
 これで6度目の準決勝敗退。どうしても、ベスト4への壁が破れない。秋へ向けての課題を問われ、「何も変える必要はない。うちの野球をするだけです」と答えた岸監督は、これまでの4強とは持つ意味が違うと強調した。「(優勝候補の)東北福祉大と東洋大に勝ったんだから」と強豪を立て続けに破った自信と経験を今大会の収穫に上げた。それはそのまま、日本一への手ごたえなのだろう。
「秋、またここに帰ってきます」
 岸監督は、そう力強く宣言して球場を後にした。

<この項はスポーツナビ>

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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