東洋大、近大……続々姿消す有力校=第58回全日本大学野球選手権・4日目リポート

島尻譲

継投ミスで東都初の連覇逃がした東洋大

8回に勝ち越し打を許した東洋大・鹿沼 【島尻譲】

「東海大さん、東北福祉大さん、近大さん、ウチ……こういう流れの大会なんですかね」
 大会連覇を狙い、優勝候補の筆頭に挙げられていた東洋大であったが……準々決勝で創価大に惜敗した直後に高橋昭雄監督(東洋大)はそう呟いた。
 全26地区の優勝校によるトーナメント戦において大金星や大波乱という言葉は適切でないかも知れないが、今大会、有力校が続々と姿を消しているのは事実である。

 東都大学春季リーグ戦11試合で15失点と強力な投手陣が自慢の東洋大は先発の乾真大(3年=東洋大姫路高)の乱調で、序盤から4点のビハインドを背負う。打線はどうにか投手陣を援護しようと、坂井貴文(3年=春日部共栄高)のバックスクリーンへのツーランや鮫島勇人(2年=浦和学院高)のライト前タイムリーなどで同点まではいくが勝ち越せない。そして、2回途中からロング救援の鹿沼圭佑(3年=桐生第一高)が連投による疲れもあり、8回に再び創価大に勝ち越しを許してしまう。最終回は、2試合連続完投で状態は万全とは言えなかった創価大のエース・大塚豊の気迫にねじふせられて試合終了。
「8回表、鹿沼は限界だと思い、マウンドへ足を運んだ。でも、鹿沼が大丈夫だと言うので、それに懸けた。打たれた鹿沼を責めることはできません。リーグ戦は鹿沼の踏ん張りで勝てたのだから。継投ミスと敗戦は私の責任」
 高橋監督は選手をかばいながら、さらに続けた。
「東都大学リーグの代表と意地で決勝までは行きたかった。とても悔しいです」
 58回の歴史を積み重ねて来た今大会で、連覇は東京六大学リーグの明大(第3・4回、第29・30回)、立大(第6・7回)、法大(第33・34回)、関西学生リーグ・近大(第37・38回、第46・47回)だけ。東都初の連覇を狙っていたからこその無念がにじみでていたように感じた。

悔いの残るサヨナラ負けを喫した近大

審判にオブストラクションを主張する近大・榎本監督 【島尻譲】

 東洋大が敗れた前の試合では関西の雄・近大が富士大にサヨナラ負けを喫していた。
 近大は初回に荒木貴裕(4年=帝京第三高)のタイムリー三塁打で先制し、2回表にも梶本宙(4年=市和歌山商高)の右犠飛で1点を加えて、試合の主導権を握る。先発の武内仁志(3年=倉吉北高)も6回1失点と責任を果たし、さらに敵失絡みで2点を追加。大量リードでこそなかったが、試合巧者の近大らしく勝利への道を踏み固めていたのである。
 しかし、3点リードの8回表の攻撃で予期せぬ落とし穴があった。1死三塁の場面で藤田和大(4年=済美高)がレフトへ飛球を打ち上げる。当然、三走の片岡耕造(1年=宇治山田商高)はタッチアップを試みるが、離塁した早々に三塁手・吉田翔吾(4年=佐野日大高)と接触してしまったために、本塁突入をあきらめて三塁へ戻ることになってしまった。ここで近大・榎本保監督は球審にオブストラクション(走塁妨害)を主張するが、受け入れられず。結局、追加点を奪うことができなかった上に、吉田の2ランなどで同点とされてしまった。
 そして、4対4と同点の9回裏。1死一、三塁とされ、榎本監督はマウンドへ足を運ぶ。バッテリーに勝負を指示するが、3番手・中後悠平(2年=近大新宮高)の「ボテボテの内野ゴロで併殺崩れになるのが恐い」という声で満塁策を選択。ところが、満塁にした直後の代打・目時大(4年=岩手福岡高)の初球が押し出し死球に。

「負けたのは事実で、やり直しさせてくれとは言わないが……8回表に1点が入っていたら完全にウチの流れだった」
“たられば”は禁物という前提ながらも榎本監督は唇をかみ締める。得点が認められたかどうかは分からない。ただ、球審と塁審の協議もなしにオブストラクションが検討されることがなかったことに悔いが残るのは本音だろう。近大はあまりにも呆気ないサヨナラ劇で大学野球の聖地・神宮球場から去ることになった。

<この項は島尻譲>

近大にサヨナラ勝ちするきっかけをつくる2ランを放った富士大・吉田 【島尻譲】

◇ ◇

■無我夢中の一発で富士大が金星(09.06.12)

 優勝候補相手に終始押され気味の試合展開だった富士大。8回に吉田翔吾(4年=佐野日大高)の2ランをきっかけに流れを引き寄せると、9回1死満塁から目時大の押し出し死球で金星をもぎ取り、同校初の4強進出を決めた。

 打った瞬間、確かな手ごたえがあった。しかし、吉田は無我夢中で走っていた。「ベンチが盛り上がっているのを見て、初めて(本塁打だと)気づきました」という一打は、前日の佛教大(京滋大学)戦の勝ち越し2ランに続く2試合連続の一発。「あれがチームに勢いを持ってきた」と青木久典監督が語る通り、勝利を引き寄せる値千金の一振りだった。  

 大学に入ってから、公式戦で放った本塁打は3本。そのうちの2本が全日本選手権で、しかも勝敗を分ける大事な場面で飛び出した。それは、「人の2倍、3倍練習する子なんですよ」と青木監督も認める努力のたまものだった。黙々とバットを振る吉田に、指揮官も手取り足取り、下半身の使い方やボールを引き付けて打つ打撃を指導した。その結果、徐々に増していった長打力が今大会の2本塁打につながった。
「恩返しができました」
 二人三脚で指導してくれた青木監督に、大舞台での活躍という最高の形で応え、吉田は笑顔を見せた。

 明日の創価大との準決勝に勝てば、同校はもちろん北東北大学連盟としても最高成績となる。だが、吉田はそれについては「意識していない」と言う。自身のバッティングに関しても、「本塁打はたまたま。今まで通り、つなぐバッティングをやっていきたい」と気負わず、自然体で準決勝に臨むつもりだ。

<この項はスポーツナビ>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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