新生植田ジャパン、“真の復活”へのスタート=バレーボール

田中夕子

“真の復活”へ向け、全日本男子の戦いが始まる 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 6月12日から、16カ国が参加する世界規模のバレーボール男子リーグ戦「ワールドリーグ2009」(埼玉・所沢市体育館など)が開幕する。これは各国代表チームが出場して毎年開催されている国際大会であり、今年で20回目を迎える。昨年は日本が16年ぶりの五輪出場を決めた直後ということもあり、多くの観客が詰めかけるなど、例年以上の高い盛り上がりを見せた。
 昨夏の北京五輪では5戦全敗と結果を出せずに終わったが、新たなチームとしてロンドン五輪出場を目指す日本代表にとって、今年のワールドリーグの位置付けは――。

 引き続き日本代表を率いる植田辰哉監督は「オリンピック後、日本のファンの方々へ男子バレーを見せられる最初の機会。いい戦いをお見せできるよう全力を尽くしたい」と語る。
 日本の初戦は、13日のロシア戦。そのほか予選ラウンドで対するのはキューバ、ブルガリアと、すべてが名実ともに世界のトップチームである。果たして、新生ニッポンはどんな戦いを見せることができるのか。

練習後に「3分間スピーチ」を実施

 植田監督は「オリンピックを終えて、はっきり見えた課題がある」とし、まず克服すべきポイントとして「コミュニケーションスキルの発達」「強化すべきポジションの明確化」の2点を挙げた。
 今回の代表メンバーには、主将に任命された宇佐美大輔(パナソニック)をはじめ、越川優(サントリー)、石島雄介(堺)ら北京五輪を経験した選手に加え、Vプレミアリーグ優勝の東レで安定したサーブレシーブ力を発揮した米山裕太、NECの得点源として活躍した前田和樹ら代表初選出組も加わっており、短期間で「個」を「チーム」として形成させるにはコミュニケーションを図ることは不可欠だ。
 そこで、植田監督が導入したのが、練習後の「3分間スピーチ」だ。「今の課題」「これからの目標」など、日ごとに異なるテーマを、指名された選手がその場で披露する。センターの松本慶彦(堺)は「人前で話すことがうまくないとあらためて分かった」と語り、同じセンターの山村宏太(サントリー)は「最初は小学生みたいだと思ったけれど、普段そんな話をすることのない今だからこそ、必要だと感じた」とさまざまな反応を見せる。3分間スピーチがコミュニケーションスキル発達・克服に直結するかは今後の結果が示すものだが、「コミュニケーションの大切さ」を刻み込むことに関しては一役買っているようだ。

誰をどう使うのか。13日に初戦を迎えるワールドリーグでは、まずはその布陣に注目したい 【スポーツナビ】

 もう1つの課題は、攻撃面にある。
 まずはセンターからのクイック打数を上げることを重視し、カウンター時にはオポジットと両レフトを絡めた、3枚のエースが配分よく攻撃を仕掛ける。いたって当たり前のように聞こえるが、これまでは、特にカウンター時はオポジットにトスが偏りがちであったことは否めない。両サイドも、サーブレシーブを主とする守備型と、攻撃型に分けられることが多く、スパイク打数に大きく差が生じることもあった。5月の代表招集後、それぞれに与えられた課題を福澤達哉(パナソニック)はこう明かす。
「パイプとか、時間差など真ん中からの攻撃よりも、レフト、ライトからしっかり速いトスを打つ。サイドからの攻撃を重視した結果、だいぶ、攻撃的なバレーになってきた」

3年間の“正念場”の始まり

 6月13、14日のワールドリーグ初戦は、世界屈指の高さを誇るロシアと対戦するが、まだコンディションが十分ではない石島、越川はメンバーから外れた。植田監督も「調子の上がっている清水、福澤、大学生の古田(史郎)ら若手を積極的に使いたい」と明言しているように、これまでとはガラリと異なる布陣が組まれることになる。
 とはいえ、今年は2012年のロンドン五輪へ向けた1年目であるとともに、8月には来年の世界選手権出場を懸けたアジア予選も開催される。「育成」と同時に、確実な成果も残さなければならないなか、日本男子バレーが構築すべきスタイルは見いだせるのか。
 16年ぶりの余韻に浸る時間はとうに終わった。真の復活へ。これから迎える戦いは、すべて正念場であることを忘れてはならない。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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