近大、一丸野球で日本一目指す=2季ぶり43回目のリーグ優勝

島尻譲

主将欠場で苦しんだリーグ序盤

2季ぶり43回目のリーグ優勝を決めた近大 【島尻譲】

「ホンマに長くて苦しいシーズンでしたね」
 近大は2日、関大を3対1と破り、2季ぶり43回目のリーグ優勝を決めた。選手たちの手で宙を舞った榎本保監督は開口一番でそう語った。

 関西学生リーグで常に優勝候補に挙げられる近大。今春もそうであったが、京大戦に2連勝した後の関学戦でまさかの2連敗。しかも2試合続けて0対1の完封負け。戦前は巽真吾(現・福岡ソフトバンク)、滝谷陣(現・日本新薬)、谷口友基(現・東邦ガス)ら軸となる投手たちが卒業したことでピッチングスタッフが課題と言われながらも、最少失点で抑えるピッチングスタッフを攻撃陣が援護できないという結果に榎本監督も頭を抱えた。ただ、打線が機能しなかった理由はハッキリしていた。それは今秋のドラフト候補にも名前の挙がる主将の荒木貴裕(4年=帝京三高)がリーグ戦直前に右足の第5中側骨(足の甲の外側)を骨折。関学戦を終えるまで荒木貴はスターティングラインアップに名を連ねることはおろか試合出場も不可能だったのである。

「ここからは負けたら終わり。トーナメントのつもりで戦う」
 リーグ戦の最大の強敵である立命大戦を前に、榎本監督が近大ナインに優勝をまだまだあきらめないことを宣言するとともに、ケガから復帰した荒木貴が「3番・ショート」に入ったことでチームが円滑に動き始めた。結果、立命大に2連勝すると、同大にも2連勝して優勝争いに踏み止まった。
 チームに勢いが付き始めたころ、関西圏は新型インフルエンザ余波というアクシデントが勃発(ぼっぱつ)。近大も休校により全体練習が禁止、試合日程の延期も余儀なくされる。それでも「野球以外の部分でも徹底して手洗い・うがいをしようといったことからチームが一丸になることができた」(荒木貴)とプラスに受け止め、最終節の関大戦にも2連勝で優勝をつかみとった。

打倒・東洋大へ燃える指揮官

苦しいシーズンだったものの、チームを盛り上げた主将・荒木貴 【島尻譲】

 今季の近大のチームカラーは“一丸野球”だ。荒木貴や藤川俊介(4年=広陵高)のようなスター選手も存在するが、ここ数年は前述した巽や大隣憲司(現・福岡ソフトバンク)といった圧倒的な力を持ったエースを中心に戦って来た。
「そういう意味では新しいチームカラーが僕も楽しみです」
 榎本監督は大学選手権での戦いを心待ちにしている。昨年は東洋大との準決勝で9回2死から追い付かれ、延長戦で引っ繰り返された苦い経験がある。東都学生リーグ5連覇を果たし、大学選手権連覇を狙う東洋大を倒すべく、俄然(がぜん)力が入る。
 また、今季は先発・リリーフにフル回転し、3勝0敗の成績を残した変則左腕の中後悠平(2年=近大新宮高)の名前を挙げて、「横から放ったり、下から放ったり。それで150キロも出る。対戦チームはきっと戸惑うことでしょう」と、当然のことながら頂点も見据えている。さらに昨秋、首位打者を獲得しながらもアキレス腱断裂で半年以上もリハビリに励んでいた若松政宏(3年=大阪桐蔭高)も関大2回戦で復帰。
「走ることに関しては高いものを求められないが、打つ方はまったく問題ない。指名打者(関西学生リーグでは指名打者制はない)や代打で使える目処が立った」
 全国に向けての好材料に、榎本監督の表情が柔らかいものになる。

 長くて辛いシーズンを“一丸野球”で乗り切って来た近大。大学選手権という大舞台に合わせたかのようにチーム力が整って来た。
「僕らはどこの学校にだけは負けたくないとか考えていません。とにかく自分たちの野球をして日本一を目指すだけです」
 主将・荒木貴の言葉は力強かった。

<了>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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