菅山かおるはビーチバレーで通用するのか!?

田中夕子

“かおる姫”こと、菅山かおるがビーチバレーに転向した。ビーチの世界で、通用することができるのか―― 【坂本清】

 インドア(室内バレー)の元全日本女子代表・菅山かおるが、今年からビーチバレーに転向した。インドア時代のファンだけでなく、透き通るような白肌が代名詞でもあった菅山かおるの水着姿を期待してか、転向発表と同時に、多くのメディアやファンが彼女の動向を追った。
 ビーチの妖精、浅尾美和とのビジュアル対決に期待が高まり、寒さでスパッツを着用すればそれだけで話題になる。写真撮影時にサングラスを外すことを拒めば「ツンツン姫」と揶揄(やゆ)された。試合へ出場すれば、大会全体の結果ではなく、菅山・溝江ペアの勝敗だけがクローズアップして報道される。
 よくも悪くも、注目を集める存在であることは間違いない。だが、一つ忘れられている本質がある。菅山かおるは、ビーチバレーでも通用するのか。

インドアとビーチの違い

ビーチの練習を始めた菅山は充実感を語った。写真は4月の愛知オープン予選でのもの 【坂本清】

 2カ月前のブラジル、イパネマ。
 リオデジャネイロに隣接する白砂が美しいビーチで、菅山は朝から晩までビーチバレーに明け暮れていた。自他ともに認める極度の人見知りなのだが、広く、どこまでも続く空の下にいるせいか、「充実しているし、この環境に満足しています」と表情も明るく、実に饒舌(じょうぜつ)だった。
 菅山を指導するエッジ・コスタコーチも「背は低いが、インドアでリベロ(守備専門のプレーヤー)をしていただけあって動きが素早い。脚力の強さも、かおるが持つ優れた点だ」と称する。欠点を指摘するのではなく、秀でた箇所を「ナイス」「グッド」と褒めて伸ばすコスタコーチの指導下、多くの練習時間を割いたのが「ショット」と言われるビーチバレー特有の攻撃と、トスの練習だった。

 同じ「バレー」と名はつくものの、ビーチバレーとインドアバレーはまるで別の競技と言っても過言ではないほどに異なる。
 たとえば、インドアでサーブカットをする場合、レシーバーはセッターの手を伸ばしたポイントを目指してカットを返す。しかしビーチでは、コート内には2人しかおらず、役割分担があるとはいえ、両者がサーブを受け、トスを上げ、スパイクを打つため、一方がカットをすると同時に、もう一方がトスアップに入る。つまり、カットを返すのは「ここ」という確かなポイントではなく、「この辺り」という空間だ。
 レシーブ力のある菅山のような選手であれば、たやすいことのように聞こえるが、インドアから転向した選手の多くが「ポイント」と「空間」の違いに苦戦する。2006年ドーハアジア大会、田中姿子とのペアで銀メダルを獲得した小泉栄子もインドアからの転向組の1人であり、「サーブカットを人がいない場所に返す。その感覚がなかなかつかめなかった」と明かす。

 ブラジルで、菅山もその「違い」に悪戦苦闘していた。「ショット」とはブロッカーの手が届かず、なおかつレシーバーにも拾われないコート前方へボールを落とす攻撃なのだが、打ち方がインドアのフェイントとはまるで違う。手首の前後へのスナップと指先を使うフェイントに対し、ショットでは空手の手刀のように、手首を斜めに返しながらボールをポンと弾く。ただ弱く「置く」だけでは風に流されてしまう。そのため、絶妙な力加減とビーチ特有の技術が必要であり、コスタコーチいわく、これらはすべて「経験のなせる技」なのだという。
 転向後2戦目となった、福岡でのサテライト大会では、楠原千秋・浦田聖子という豊富な経験を持つペアに対し、なすすべもなく0−2で敗れた。経験がすべて、とくくってしまうのはあまりに安易だが、「まだまだ何もできない。ヘタクソです」と言う菅山にとって、厳しい現実をつきつけられたのも事実だ。

「ビーチは30歳を過ぎたあたりがちょうどいい」

パートナーの溝江明香(右)とともに、笑顔を見せる菅山 【坂本清】

 とはいえ、悲観するばかりでもない。
 現在30歳だが、日が暮れても「ボールが見える限り、練習したい。とにかく、うまくなりたい」と何時間でも練習し続けるひたむきさと、競技への貪欲(どんよく)さ。競技へ真摯(しんし)に取り組む姿勢は本物で、「ブラジルへ来た当初と比べ、短期間でみるみるうちに上達してきた」とコスタコーチも太鼓判を押す。さらに、こうも続けた。

「ビーチ(バレー)は30歳を過ぎたあたりがちょうどいい。オフェンス面の課題を克服できたとき、そのことをかおるがきっと証明してくれるはずだ。今はまだ、インドアのクセを抜いている時期。結果を急がず、温かい目でかおるのこれからを楽しみにしていてほしい」

 アイドル・かおる姫ではなく、アスリート・菅山かおるの真価が問われるのは、もう少し、先のことになりそうだ。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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