高原直泰、遠い復活への道のり=不振にあえぐ現状に迫る
チームとかみ合わない高原のポストプレー
当時、高原の入団会見には多くのマスコミが詰め掛けた。彼への期待はいまだに大きいのだが…… 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】
特に視野の狭さが気掛かりだ。味方がフォローアップして彼の周りに集まっているのに、球離れが遅くノックダウンの要因となっている。京都戦では、それまでエジミウソン、ポンテ、山田直輝、原口の前線4人が流麗なコンビネーションを駆使して攻撃をオーガナイズしていたが、途中で原口に代わり高原が入ると一転、連動性が希薄になってボール保持率が減退し、京都に主導権を譲り渡す時間を生んでしまった。
事前に数々の選択肢を準備していれば躊躇(ちゅうちょ)なくプレーできるはずだが、今の彼は精神面に余裕がないのか、ボールを受けてから次の動作を考える素振りが目立つ。味方選手は高原のプレーによって動き出しの再考に迫られ、ポジションをシフトするが結局ボールは高原の足から出てこない。最悪のケースは高原がボールを逸したときで、味方は攻守転換を余儀なくされエネルギーを消費してしまう。
そしてなにより、敵陣から遠い位置でプレーするために、高原の本来の特性であるゴールへの渇望が希薄になっている。今季彼が出場した9試合総計(サテライトリーグも含む)で、シュート数はわずか6本。1試合平均で1本にも満たないのはFWとして心もとない。
長所だったゴール前でのプレーにもあせりの色が
傑出したストライカーの特徴として、ファーサイドからのチャレンジがある。フィリッポ・インザーギ(ACミラン)やズラタン・イブラヒモビッチ(インテル)らのゴールゲッターは相手ゴールのニアサイドではなくファーサイドへ走り込む傾向がある。これは相手守備者がボールとマーカーを同一視野に入れられなくなることを意味し、防御を困難にする。浦和のDF坪井は守備者の観点から、「ボールから逃げていくFWが最も守りにくい」と吐露する。例えば右サイドで味方選手がボールを保持した際、ストライカーはわざと左エリアへポジションをシフトし、ファーサイドからゴール前へ走り込んでクロスボールにコンタクトしようとするのだ。
だが、今の高原はなるべく早くボールに近づこうとニアサイド、もしくはゴール中央へ飛び込む傾向がある。ニアサイドでピンポイントで合わせるプレーは高原の持ち味の一つではあるが、こればかりでは守備者にとってはくみしやすい。常に高原を視界にとらえることができるため、クロスボールが供給された際に対処しやすいのだ。その結果、満を持して放つヘディングは相手DFのプレッシャーに遭ってゴール枠を外れ、乾坤一擲(けんこんいってき)のシュートは簡単にブロックされてしまうのである。
ファーサイドで勝負できないのは精神面に起因していると推測される。ボールに近づきたがり、ボールから離れられないのはチーム内の立場が揺らぎ、自らにボールが集まらない不安を抱えているからか。はたまた結果を求め過ぎるあまり、視線が一点に向き過ぎているからか。いずれにしても、現在の彼と“ボールとの距離”は、あまり適切ではない。
控えの立場が続く可能性も
「今はチームが勝っている状態で途中から出場することが多いです。そんな中で、可能であれば点を取りたいですが、今は何をすべきか、どういうプレーをすべきかというチョイスをすることも大事かなと。自分が点を取りたいからといって無理なプレーをして、チームに迷惑をかけるようなことはしちゃいけない。それは臨機応変に、ときには自分を抑えなくては。ただ、今後はゴールで結果を出したいとも思います。それはチームとしても、個人としても」
孤高のFWとして日本サッカー界に君臨してきた。その実績はいまだ色あせず、決定力不足がささやかれる日本代表、そして浦和でもオールラウンドのゴールゲッターとしての活躍はいまだに渇望されている。しかし、周囲の期待と現状とのギャップを何よりも感じているのは、実は本人なのかもしれない。
初夏を思わせる16時の鴻巣。サテライトリーグ終了後にベンチにたたずみ、帰路を急ぐサポーターと、この日スタジアム内のポールに飾られたこいのぼりを見つめていた彼は今、何を思うのだろう。
<了>