東レ、“ベストプレーヤー”不在の優勝=バレーボール
4季ぶりの優勝を決めた東レ。スタープレーヤーこそ不在だが、チームには堅固な強さがあった 【坂本清】
「このチームの強さ」とは
今季加入のボヨビッチ。期待どおりの活躍で、MVPに輝いた 【坂本清】
「東レって、誰を撮ればいいの?」
昨夏の北京五輪出場選手も、派手な印象を残す選手もいない。カメラマンだけでなく、28試合のレギュラーラウンドで全体2位の544得点を挙げ、最優秀選手賞に輝いたボヨビッチも「このチームには、各ポジションの“ベストプレーヤー”と呼べる選手はいない」と言う。
数字だけを見ればアタック決定本数(2位)、ブロック(9位)、サーブ(8位)のボヨビッチを除けば、ブロックでは富松崇彰(2位)、篠田歩(6位)が、サーブレシーブで米山裕太(3位)、田辺修(4位)とベスト10圏内の選手もいるが、それほど目を引くものとは言い難い。
ただし、とボヨビッチはこう続けた。
「みんなが一緒にプレーをしたときに、強いメンタリティーのもとで力を発揮する。それが、このチームの強さだ」
篠田歩のキャプテンシー
リーグ優勝杯の「ブランデージ杯」を掲げる、主将・篠田 【Photo:築田純/アフロスポーツ】
相手チームの覇気が感じられない試合後には「拍子抜けした」と言い放ち、自チームが自滅に近い負け方を喫したセミファイナル・堺戦では「トスが浮いていた。(阿部)裕太が何とかしてくれないと」とチームメートをも名指しで一喝する。40点を超える攻防が繰り広げられた2レグ・サントリー戦では、ブロック時に相手選手へ向けたガッツポーズと言葉の威嚇で、イエローカードを出された。
キャプテン就任直後は、マイペースで、われ関せず、飄々(ひょうひょう)としたイメージが先行したが、高校時代の師が「納得できる理由があれば、自分が何をすべきか分かっている選手」と評するように、周囲が驚くほどストレートな現在の振る舞いには、理由がある。
「ウチのチームは、それぞれが気持ちを前に出すことで乗っていく。僕はそれを働きかけるために、闘志を前面に出すことが仕事なんじゃないかなと。開幕戦から声が枯れたりするけれど、チームが勝てば何でもいいと思っていますから」
今では誰もが認める闘将・篠田。最優秀選手賞を発表する際、篠田の周囲にはMVPをたたえようと多くの選手が集まっていた。しかし、名を呼ばれたのはボヨビッチ。苦笑いを浮かべ、陰のMVPは仲間たちの手を握り合った。