東レ、“ベストプレーヤー”不在の優勝=バレーボール

田中夕子

4季ぶりの優勝を決めた東レ。スタープレーヤーこそ不在だが、チームには堅固な強さがあった 【坂本清】

 バレーボールのVプレミアリーグ男子決勝が12日、東京体育館で行われ、東レが堺を3−0(29-27、25-20、25-23)で下し、4季ぶり2度目の優勝を決めた。

「このチームの強さ」とは

 ビクトリーポイントを誰に託すか。セッターの阿部裕太は、迷わず、バックライトのボヨビッチ・デヤンへ。高い打点から放ったバックアタックが堺のコートへ突き刺さり、東レが4年ぶり2度目のリーグ優勝。昨年12月に天皇杯を制しての二冠達成だけでなく、前日の女子決勝を制した女子とともに、Vリーグ史上初の男女アベック優勝という快挙を成し遂げた。

今季加入のボヨビッチ。期待どおりの活躍で、MVPに輝いた 【坂本清】

 決勝戦の開始を間際に控えたプレスルームで、冗談混じりにカメラマンたちが会話する。
「東レって、誰を撮ればいいの?」
 昨夏の北京五輪出場選手も、派手な印象を残す選手もいない。カメラマンだけでなく、28試合のレギュラーラウンドで全体2位の544得点を挙げ、最優秀選手賞に輝いたボヨビッチも「このチームには、各ポジションの“ベストプレーヤー”と呼べる選手はいない」と言う。
 数字だけを見ればアタック決定本数(2位)、ブロック(9位)、サーブ(8位)のボヨビッチを除けば、ブロックでは富松崇彰(2位)、篠田歩(6位)が、サーブレシーブで米山裕太(3位)、田辺修(4位)とベスト10圏内の選手もいるが、それほど目を引くものとは言い難い。
 ただし、とボヨビッチはこう続けた。
「みんなが一緒にプレーをしたときに、強いメンタリティーのもとで力を発揮する。それが、このチームの強さだ」

篠田歩のキャプテンシー

リーグ優勝杯の「ブランデージ杯」を掲げる、主将・篠田 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 篠田の言動には容赦がない。
 相手チームの覇気が感じられない試合後には「拍子抜けした」と言い放ち、自チームが自滅に近い負け方を喫したセミファイナル・堺戦では「トスが浮いていた。(阿部)裕太が何とかしてくれないと」とチームメートをも名指しで一喝する。40点を超える攻防が繰り広げられた2レグ・サントリー戦では、ブロック時に相手選手へ向けたガッツポーズと言葉の威嚇で、イエローカードを出された。
 キャプテン就任直後は、マイペースで、われ関せず、飄々(ひょうひょう)としたイメージが先行したが、高校時代の師が「納得できる理由があれば、自分が何をすべきか分かっている選手」と評するように、周囲が驚くほどストレートな現在の振る舞いには、理由がある。
「ウチのチームは、それぞれが気持ちを前に出すことで乗っていく。僕はそれを働きかけるために、闘志を前面に出すことが仕事なんじゃないかなと。開幕戦から声が枯れたりするけれど、チームが勝てば何でもいいと思っていますから」
 今では誰もが認める闘将・篠田。最優秀選手賞を発表する際、篠田の周囲にはMVPをたたえようと多くの選手が集まっていた。しかし、名を呼ばれたのはボヨビッチ。苦笑いを浮かべ、陰のMVPは仲間たちの手を握り合った。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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