輝きを放った今村と菊池 影を落とした“ブログ問題”=第81回選抜高校野球・総括

松倉雄太

松坂の記録を上回った清峰高・今村

冷静な投球で清峰高を優勝に導いたエース・今村 【写真は共同】

 第81回選抜高校野球大会は、清峰高(長崎)が県勢として甲子園で初めて優勝し幕を閉じた。1点差試合が半分近い14試合と競ったゲームが多く、平均試合時間も2時間1分(延長戦も含む)とスピーディーな大会だった。

『両雄並び立たず』。
 二人の英雄が現れれば、どちらかが倒れるということわざだが、今大会に関しては、当てはまらなかった。

 花巻東高(岩手)の菊池雄星、清峰高の今村猛。高校野球界を代表する左右の両輪が、決勝戦で期待通りの投げ合いを見せた。両投手とも1回戦から2試合連続で完封、さらに奪三振も2試合連続で2ケタ。対戦相手は、“打倒・菊池”、“打倒・今村”で挑んだが、攻略の糸口を完全につかむには至らなかったというのが正直な感想だ。

 優勝投手となった今村は、5試合(44回)を投げてわずか1失点。奪った三振47は11年前の横浜高・松坂大輔(現米大リーグ・レッドソックス/45回43奪三振)を上回った。昨夏の甲子園での反省から投球術を磨き、マウンドでは極力表情を変えず、ポーカーフェイスを貫いた。無走者の時や、相手に打ち気がないと見るや、平気で甘い球も投げた。そしてピンチのときや、勝負どころではギアを入れ替えたように150キロ近い速球と鋭いスライダーを投げ込んだ。今村と対戦した多くの打者はこう話す。
「決して打てない投手だとは思わなかった。甘い球も多かったが、それを見逃してしまった」
 これこそが今村の真骨頂。捕手の川本真也は「そこまで考えているわけではない」と否定するが、打者は「打てる」と錯覚し、甘い球を見逃し、ギアの入った球を打ち損じてしまった。結果としてわずか1失点。雑誌のアンケートで趣味が人間観察と書いた今村。打者を見る目も見事だ。
 吉田洸二監督は、「今村は試合中でも微調整できるようになった。(その陰には)川本のリードも大きい。バッテリーに関しては、大きな課題はない」と2人の成長を肌で感じ取っている。更なる成長が楽しみだ。

大物感がうかがえる150キロ左腕・菊池

最速150キロを計測し、将来性の高さを感じさせた花巻東・菊池 【写真は共同】

 菊池も5試合(40回)で3失点と素晴らしい成績を残した。1回戦で150キロを計測。強打が自慢の鵡川高(北海道)を9回1死までノーヒットに抑えたピッチングは将来への期待をさらに高めるものだった。三振やアウトを奪うたびに見せる派手なガッツポーズも話題になったが、「自分は常に命を懸けて投げている。ガッツポーズという意識はない」と話す姿にも大物感がうかがえる。
 1点に泣いた決勝戦。最終回、二塁走者だった菊池は、届かなかったホームベースを見つつめるシーンがあった。
「野球の神様がまだ練習不足と言っているのだと思う」。
 悔しさを押し殺し、こう話せるのも菊池の人間性だろう。

 今村と菊池について、「敵に回さなくて良かったといつも思っている」と清峰高・川本、花巻東高・千葉祐輔の両捕手は口をそろえる。
 自分たちのエースを攻略するにはどうしたらいいか。
「今村と対戦するとしたら、真っ向勝負しかないと思います」(清峰高・川本)
「雄星(菊池)が相手だとしたら、足とか小技を使って崩したい」(花巻東高・千葉)と、両捕手は話してくれた。夏の大会で、この2投手を攻略できるチームは現れるのだろうか。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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