新生「秋山ホークス」は生まれ変わったのか=鷹詞2009〜たかことば〜

田尻耕太郎

3番打者が送りバント

 オープン戦はただの練習試合ではない。そのシーズンの、チームの戦い方を見極める大事な場である。それは開幕が近付くほどより明確に見えてくる。
 3月29日、福岡ソフトバンクのオープン戦最終戦。3回裏だった。無死一、二塁、スコアは1対3。打席には3番・松田宣浩が入った。これからクリーンアップを迎える最高のシチュエーション。うまくいけば逆転、そして大量得点のチャンスだ。初球、松田は迷わずバットを横にした。コツンという音とともにボールは捕手の前に転がる。送りバントだ。走者は三塁と二塁に進む。そして4番・松中信彦の2球目に相手投手が暴投。福岡ソフトバンクは1点を返した。
 福岡ソフトバンクは「横綱」の看板を捨てた。

かつての黄金期野球を復活

 今季は14年ぶりに新しい監督の下でスタートを切る。秋山幸二新監督はチームに改革のタクトを振るった。確かに九州のファンは豪快に打ち勝つ野球を好むし、かつてはそれで日本一に上り詰めたこともある。しかし、秋山監督は「勝つため」に「1点にこだわる」野球を目指す。それは1990年代の西武黄金期の野球に似ている。当時の3番打者だった指揮官は「それぞれが役割を果たしていた」と振り返る。
「1番打者は出塁することを考えていた。2番打者はバントの名人だった。クリーンアップや下位打線も役割をきっちり果たしていた。だから強かった」
 秋山監督は福岡ソフトバンクにもそれを求めている。「ことしは一発、一発というわけにはいかない。どの球団も投手がいいし、打って勝つのは難しい」と考えており、春季キャンプからよく「細かい動き」という言葉を口にした。キャンプからオープン戦を通じてそれを実践。「選手たちの意識を高めることができた」と秋山監督は手ごたえを感じている。
 ことし主将に就任した小久保裕紀は開幕前日に次のように話した。
「今季の合言葉は接戦に持ち込み、接戦をモノにする。オープン戦では中継ぎ、抑えが安定していたし、僕ら野手陣は6回から7回までに1点でもリードして迎える戦いを意識しないといけない」
 今季プロ通算400号本塁打の金字塔に挑戦(残り34本)する主砲は「もちろんそれは達成したいけど、秋山監督の野球はどん欲に1点を取りにいく野球。1点でも多くとれば勝つわけですから。ファンの皆さんにもそういう姿勢を見てほしいですね」とあくまでフォア・ザ・チームを貫いた。

「フリキレ!!」に込められた思い

 そして、秋山監督は選手たちに「明るさ」も求めている。
「思い切って伸び伸びプレーしてほしい」
 今季の球団スローガン「フリキレ!!」にはその思いが込められている。また、ヤフードームもその意図から改良が施された。6年ぶりに張り替えられた最新式の人工芝は「ケガを恐れることなく思い切ったプレーができる」と喜んだ。外野フェンスの一部の色を塗り替えたのは「圧迫感をなくしたかった」から。さらに自軍の一塁側ベンチの天井には「少しでも(雰囲気が)明るくなれば」と“青空”が描かれた。

 昨季はかつての同僚だった埼玉西武・渡辺久信監督が就任1年目で日本一を達成した。意識しないわけがない。ホークス福岡移転後初の“九州男児”の監督は、どんな夢を見せてくれるのだろうか。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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