東北勢初優勝のために必要なものとは!?=タジケンのセンバツリポート2009 Vol.12

田尻賢誉

相手の立場を考え、行動できる花巻東高の選手たち

決勝で清峰に敗れ、涙をぬぐう菊池投手ら花巻東ナイン。優勝には届かなかったが印象的な活躍を見せた 【写真は共同】

 甲子園では試合前に室内練習場で試合前取材の時間が設けられている。通常の試合なら10分間、決勝戦なら15分間。一、三塁のアルプス席下にある室内練習場に、報道陣は扉を開けて入る。さらに選手たちがいる場所へは、ネットを手で持ち上げ、そのネットをくぐるようにして入ることになる。

 ところが、花巻東高の試合前取材に限っては、扉を開ける必要も、ネットを持ち上げる必要もない。なぜなら、練習補助員の控え選手たちがドアを押さえ、ネットを持ち上げていてくれるからだ。こんなことをしてくれる学校は出場32校中、花巻東高だけ。いや、2001年以降、毎年春夏の甲子園を取材させていただいているが、ここまでしてくれるチームは記憶にない。
 しかも、驚くことに、これは佐々木洋監督が指示したことではない。事実、このことを佐々木監督に尋ねると「本当ですか?」と逆に驚いていた。ベンチ入りできなかった選手たちも、相手の立場に立ち、自分が何をするべきかを考え、行動できる。

「野球のうまいロボットをつくっているわけではない。野球もできる立派な人間をつくるのが指導する上での信念。選手たちには、『6時間の授業のあと、野球の練習が7、8時間目の授業のつもりでやりなさい』と言っています」
 と常々話している佐々木監督の指導のたまものだ。

 このコラムで再三書かせていただいたカバーリング、ベンチの雰囲気のほか、走者が常にオーバーランをし、最後まで目を離さず次の塁を狙う姿勢なども含め、やっている野球、選手たちの態度や人間性は間違いなく花巻東高が一番だった。

決勝で見せた“らしくない”プレー

 ただひとつ、悔やまれるのが、決勝の5回表、佐藤隆二郎が打席の真上にフライを打ち上げたあと、ボールを見失い一塁へ走らなかったこと。凡打でも全力疾走を徹底してきた花巻東高にとっては最も“らしくない”プレー。結果的に投手、捕手、三塁手がお見合いしてフェアゾーンにボールが落ちただけに、悔やまれるプレーだった(記録は捕ゴロ)。
 佐藤隆は準々決勝まで9打数1安打と不振。だが、準決勝の利府高戦では「自分でもアウトだと思った」という当たりが2本、安打になるなどラッキーボーイになっていた。決勝でも2回にライト前へのライナーを飛び込んで捕球し、併殺にするファインプレー。前日からの流れは続いていただけに、ツキを自ら手放してしまうプレーになってしまった。
 だが、だからといって佐藤隆ばかりは責められない。失策も、守備位置のミスもあった。それでも、仲間のミスをカバーするのが花巻東高の真骨頂。気持ちを切りかえて反撃に転じると、8、9回には逆転を狙える好機をつくった。最後まで、“逆転の東”らしい粘りの野球を見せた。

 そんな花巻東高の人間力野球を上回ったのが、清峰高のエース・今村猛。今大会では44イニングを投げ、わすか1失点のほぼ完ぺきな投球を見せた。力投型の花巻東高・菊池雄星とは対照的に、初戦から力勝負は封印。5試合目の登板となった決勝でも余力を感じさせた。大会を通じて失投はほとんどなし。力を入れて投げる得点圏に走者を置いた場面では36打数4安打(被打率1割1分1厘)と無類の強さを誇った。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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