清峰と箕島、“常連”と“久しぶり”の差=タジケンのセンバツリポート2009 Vol.9

田尻賢誉

悔やまれる箕島高の外野守備

久しぶりの甲子園となった箕島高だったが、清峰高の前に敗退。その明暗を分けたのは、外野の守備だった 【写真は共同】

【清峰 8−2 箕島】 

 浅い。浅すぎる。
 これが、箕島高(和歌山)の外野手の守備位置を見ての印象だった。

 2回、さっそく清峰高(長崎)の打球が頭上を襲う。初戦で本塁打を放っている5番の今村猛がレフトへ。初スタメンの7番・背番号15の中山雄介がセンターへ。いずれも外野手が背走してつかむ当たりだった。
 だが、この“危険信号”にも箕島高の外野陣は守備位置を変える様子はない。5回には9番の橋本洋俊にレフト頭上を、1番の屋久貴博にセンター頭上を破られた。屋久は3回の打席でも左中間を深々と破る二塁打を放っていたが、それでも守備位置は変わらない。橋本のレフトオーバーの当たりが出て、ようやくベンチの松下博紀監督から外野手へ「下がれ」という大きなジェスチャーが送られた。
 この守備位置について、レフトの太田亮は言う。
「1番とクリーンアップのときはあれでもいつもより下がっていた方です。9番は非力と聞いてたんで。前に守るのは監督の指示です」
 センターの萬谷徹平も同様。
「いつもより、気持ち後ろには下がっていました」
 ちなみに、太田にそれより深めに守ったことがあるかと聞くと、こんな答えだった。
「(昨秋の和歌山県大会で対戦した)日高中津高の4番のときはもっと下がってました」

徹底されていた清峰高の長打への警戒

 清峰高の打線は見た目よりも強力だ。初出場の夏には大石剛志が大阪桐蔭の150キロ左腕・辻内崇伸(現巨人)からセンター左へ本塁打。現チームの選手も昨夏に山嵜健太郎が、今春に今村が甲子園のスタンドに放り込むなど、出場するたびに誰かが必ず本塁打を記録する。また、小柄な打者でも侮れない。昨夏は154センチの9番打者・値賀脩斗が東邦高戦で二塁打を放ったが、この値賀は2年生のときは6番を任されるなど、力強いスイングが持ち味だった。現チームのレギュラーも、セカンドの坂本大地以外、全員が昨秋の公式戦で長打を記録している。
 清峰高の大きな練習テーマは「スピード&パワー」をつけること。そのために丸太を抱えてのダッシュや階段のぼりトレーニングなどを行う。その中でも、丸太を抱えたまま山道を走るオールアウトという練習はホントかウソか吉田洸二監督が「一緒についてきた野良犬の方が先にバテる」と言うほど過酷なもの。どの選手も並の高校生以上のパワーを持っている。
 エースの森本俊は延長になった開星高戦を含む2試合を1人で投げ抜いた疲れから、清峰高戦では本来の球威や切れが見られなかった。それだけに、なおさら箕島高の外野陣の守備位置が悔やまれる。

 一方の清峰高の外野手は、2試合連続完封の最速148キロ右腕・絶対的エースの今村を擁していながら、全員が箕島高の外野手よりも深めの守備位置だった。6番の太田の打席時でも、松下監督の指示によって深くなった箕島高の外野手の守備位置よりも深め。8番の山本大介の打席でも、レフトの辻善幸は太田の通常の守る位置より深めだった。その守備位置について、辻はこう説明する。
「3、4、5番は長打があるので深めでワンヒットでいいかなと。それ以外も深め? 普段からあのへんに守ります。後ろに走るのと前に走るとでは前に走る方が速いですし、後ろより、前の方が来れると思うんです」
 同じく下位打線にも深めの守備位置をとっていたセンターの富永貴文もこう言う。
「今村さんはランナーがいないときは球が遅くなるので、8、9番でも甘く入れば長打がある。後ろに守って長打を防ぐのが狙いです。チームの方針としてそうなってますね。もちろん、追い込んだときは若干前に寄ります」
 ちなみに、清峰高は力のないチームの1、2番や下位打線にいる非力な左打者相手でも外野手が極端に前に寄ることは少ない。辻は言う。
「前には寄りますけど、そこまで前には行かないです。そんなになめたりはしません」
 高校野球、特に甲子園では長打が流れを変える。中心打者が打つのはもちろん、めったに長打が出ないような下位打者が長打を放つと、一気にムードが変わって大量得点ということも珍しくない。今村のような投手がいても、それだけ警戒する必要があるのだ。

明暗を分ける「飛んでくる前の準備」

 もうひとつつけ加えると、箕島高のセンター・萬谷は1番から9番まで、どの打者の打席でも守備位置はほぼホームベースとセカンドベースを結ぶ延長線上にいた。本人は「変化球のときは少し寄っていた」と言ったが、それも数歩。左右に数メートル大きく守備位置を変えることはなかった。
 清峰高はもちろん、大胆な守備を敷く千葉経済大付高(千葉)など、甲子園では大きく守備位置を変えるのは常識。このあたりからも、箕島高の外野手守備への工夫の足りなさがうかがえる。清峰高のセンター・富永は守備位置を変えるだけでなく、しっかりと風の確認もしていた。
「風は(バックスクリーン上の)旗を見て毎回確認します。同じ打者のときでも、風向きが変わることがあるので、2球に1球ぐらいはチェックしています」
 
 ちなみに、前日の利府高(宮城)と習志野高(千葉)の試合では、1対1の8回に利府高のライトが平凡なフライを捕れず、三塁打にした場面があった。これは、打球が上がった瞬間にライトは手を上げ、「OK。余裕で捕れる」とジェスチャーをしていたのが、思った以上に風で伸びたもの。風向きの確認を怠った結果だった。このときはエースの塚本峻大が踏ん張り事なきをえたが、命取りになりかねないプレーだった。
 わずかなスキが勝敗に直結する。それが外野手の守備。その中でも大事なのが、打球が飛んでくる前の準備なのだ。

 その意味で、清峰高と箕島高の差は大きい。
 ラッキーゾーン最後の年となった1991年以来のセンバツ出場となる箕島高と、2005年以降、甲子園の常連となった清峰高。実績、伝統、OBの力、ファンの声援……。これらは、いずれも箕島高に大きく分がある。だが、現在の甲子園での戦い方を知っているのは間違いなく清峰高だった。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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