習志野高に勇気を与える“特別な応援”=タジケンのセンバツリポート2009 Vol.5

田尻賢誉

伝統のチャンステーマ『レッツゴー・習志野』

伝統の応援に後押しされた習志野高。高橋彗のサヨナラ打で1回戦を突破した 【写真は共同】

【彦根東 4−5 習志野】

 真っ赤ではない。“まっかっか”だった。

『赤鬼魂 滋賀県立彦根東高等学校』と書かれた横断幕の下、まさに立すいの余地なく超満員に膨れ上がった一塁側アルプスは赤一色。
 これには、「まっかっかになるとは聞いてましたけど、あんなになるとは」(投手・大澤信明)と彦根東高ナインも驚くほど。三塁側ベンチから正面に見える習志野高にも「存在感があって圧倒された」(三塁手・染谷尚宏)ぐらいのインパクトがあった。

 だが、そんな一塁側アルプスを逆に圧倒したのが習志野高のブラスバンドだった。習志野高の攻撃中は、アルプスから遠く離れたネット裏でも、隣の人と普通に会話をするのが困難。大きな声を出さないと聞こえないほどのずば抜けた音量を誇る。野球の応援らしくアップテンポでノリもよく、他校と同じ曲を演奏していても、違う曲かのような印象を受けるほどだ。

 そんな習志野高の応援の中でも、特別なのが『レッツゴー・習志野』。主にチャンスのときに流れるオリジナルの応援歌だ。テンポやノリがいいだけでなく、覚えやすい音楽で思わず口ずさみたくなるリズム。そんな話を染谷にすると「ベンチでも口ずさむことがあります。前は(携帯電話の)着メロにもしていました」。
 実はこの曲は、習志野高ではるか昔から使用されている。小林徹監督がエース、加瀬弘明部長がショートとして出場した1980年夏の甲子園当時でも演奏されていた。
「現役のときは、あの曲が流れてくると力以上のものが出ました。(『レッツゴー習志野』を含め)あの応援は生徒にはもちろん励みになると思いますが、それ以上に相手にも嫌なんじゃないですかね。間違いなくウチにとっての追い風になっていますね」(加瀬部長)

「いつも盛り上げてくれる応援のためにも」

 彦根東高戦でも、チャンスが続いた終盤には『レッツゴー・習志野』の大演奏。同点で迎えた9回裏には、先頭打者から『レッツゴー・習志野』が鳴り響いた。
 そして、「あの曲がかかると点が入りそうな流れになる」という佐藤和真がレフト前安打で出塁。犠打や四球などで2死一、二塁となった後、高橋彗志郎が右中間へサヨナラ安打を放った。
「どの応援でも力をもらうんですけど、『レッツゴー』は習志野の応援なので、気持ちが高ぶります。いつも盛り上げてくれる応援のためにも、一本出すしかないと思っていました」(高橋彗)

 昨秋、ブラスバンド部が応援に駆けつけるようになったのは千葉県大会の準決勝から。その試合以降、敗れた慶応高戦を除いて習志野高はことごとく1点差で試合をものにしている。

県大会   準決勝 ○2−1市柏
       決勝 ○6−5木更津総合
関東大会  1回戦  ○4−3日大藤沢
        準々決勝 ○8−7下妻二
        準決勝  ○2−1高崎商
        決勝   ●6−8慶応
センバツ  1回戦  ○5−4彦根東

 これは決して、偶然ではないはず。
「ホント応援がすごいんで、勇気づけられます。あの応援に後押しされて、点数が入って接戦も勝てていると思います」(染谷)
 関東大会で延長の末敗れた下妻二高の小菅勲監督が「あの応援にやられました」とこぼしていたが、間違いなく、ブラスバンドが選手たちの力になっている。

 甲子園の上位常連校には、必ずといっていいほどチャンスでのオリジナル曲がある。駒大苫小牧高の『チャンス』、天理高の『わっしょい』、平安高のチャンステーマ、沖縄県勢の『ハイサイおじさん』などは他校も自分たちの応援に使用するほど。“元祖”のチームの攻撃でこれらの曲がかかると点が入りそうな雰囲気になる。
 その中でも、オリジナルチャンステーマを演奏する“元祖中の元祖”が習志野高。33年ぶりのセンバツでも、応援の力は健在だった。
 応援団も立派な戦力。伝統校の違った意味での底力を感じさせられた試合だった。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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