廃部の西武が身をもって示したもの=アイスホッケー

沢田聡子

最後の試合、第7戦を終えて

ファンに手を振ってあいさつをする西武主将の鈴木貴人 【写真は共同】

 平日の夜にもかかわらず、立ち見も出た満員のアリーナで、西武の最後の試合となる第7戦は始まった。しかし、日本製紙に3点を先行される。苦しい中、やはりここでも得点したのは鈴木だった。第2ピリオド終了まであと4秒というところで、ゴール横から打った執念のシュートは好守を続ける日本製紙のGK・石川央も止めることができなかった。
 さらに鈴木は、第3ピリオドも後半に入り、ファンも焦りを感じる中で1点差に詰め寄る2点目のゴールも決めた。西武は最後の最後まで激しく相手ゴールを攻め立てるが、日本製紙の守りは固かった。ついに西武のラストゲームは1点差を詰められないまま終わり、紙テープが舞う中、歓喜する日本製紙の選手たちをぼうぜんと見つめたまま動けない西武の選手たちが氷上にいた。

 「最後10分くらいはずっと攻めてて、いいとこまでいったんですけど、なんでゴールが割れなかったのか……」

 試合後悔しさを隠しきれない小原だったが、西武というチームには誇りを持ってシーズンを終えた。

「廃部決まってからこんなに最後までみんな一丸となってやれるチームっていうのはそうないと思うんで……選手のプライドとか意識の高さっていうのはすごいなって、改めて感じました」(小原)

 目を赤くして取り囲む取材陣に応じる鈴木も、チームへの思いを語った。

「苦しい状況の中でここまで、みんな気持ち折れないで戦った」
「アイスホッケーの楽しさをみんなに伝えられたと思うし、ほんと西武はいいチームだったっていうのもみんなに分かってもらえたと思うし、その二つは伝えられたんじゃないかと自分では思ってます」
「釧路でがけっぷちになっても試合投げる選手もいないし、気持ち折れる選手もいないし、最後1点差で負けてても最後の最後まで相手にプレッシャーかけられたし……ほんとにホッケー楽しいって自分でやってても思ったし、みなさんもそう思ってくれたんじゃないかと思います」

 さらに鈴木は、今までチームを所有していた会社、アイスホッケーファンに対する感謝を口にして、最後の戦いを締めくくった。

移籍か現役引退かの厳しい現実

 現在、西武をチームごと受け入れる企業は見つかっていない。状況が変わらなければ選手たちはそれぞれの立場により、移籍先を探して選手生活を続けるか、西武の社員としての仕事に専念して現役引退するか、次の道を決めなくてはならなくなる。
 不況下で、企業スポーツが曲がり角に来ていることは明らかだ。西武も、地元とのつながりを深める努力をすることで方向性を探っていたが、クラブ化することも今まで企業の経営下にあったチームにとっては困難だろう。

 東京からアイスホッケーのトップリーグのチームが消えるという事態が、目の前に現実となって迫っている。ひとつの企業がまるごとチームを引き受けることが難しいのであれば、スポンサーという形で複数の企業がチームを支えることはできないのだろうか。不況下で一番大切である「あきらめない心」を身をもって示してくれた西武の消滅は、あまりにも大きな損失に思えてならない。

<了>

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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