問いたいバント処理への姿勢=タジケンのセンバツリポート2009 Vol.2

田尻賢誉

見当たらない工夫、勝負の姿勢

投打ともに注目を集めている中京大中京の堂林。バント処理でも非凡なものを見せた 【写真は共同】

 なぜ、勝負しないのだろう。
 たった2日間、わずか6試合だが、それがこれまでの印象だ。
 では、何を勝負しないのか。
 それは、バント処理だ。

 今大会6試合で記録された犠打は34個。1試合平均5.7個だ。一方で、送りバント失敗は5個しかない。高校野球らしく、どの高校もバントを練習していることがうかがえる。
 だが、そのバント失敗の内訳を見ると、フライを上げての失敗が3つ。ゴロをダッシュしてつかみ、二塁でアウトにしたのは2つだけだ。ちなみに、野選はひとつもない。成功の34個を含め、36回バントでゴロが転がりながら、二塁へ投げた選手は2人だけということになる。
 もちろん、打者がいいバントをしているから仕方ないのだが、では、どれだけのバッテリーがバントをさせない工夫をしているか。残念ながら、ここまではほとんどといっていいほど見当たらない。

生かし切れない「バントしづらい球」

 23日の日本文理高(新潟)戦、最速148キロをマークした清峰高(長崎)の今村猛も、犠打2つを決められたが、その間に投じたのはわずか3球。それも、打者がバントしなかったのはボール球だった。特に2つめは4回無死一、二塁の場面。今村の豪球を内角に投げれば、フォースプレーで三塁を封殺する失敗バントを誘発できる可能性も高いが、あっさりと決められてしまった。さらに、バントされた打球を捕りに行く姿勢も「絶対に三塁で刺してやる」という意欲は見えなかった。

 同じくこの日、国士舘高(東京)戦で最速144キロを記録した福知山成美高(京都)の長岡宏介も同様。速球に加え、バントをするのは困難と思われる切れのいいスライダーを持つが、3回、8回、延長12回といずれも無死一塁の場面で簡単に送りバントを許した。この間に投じたのは6球で、バントされた球はいずれも外角の直球。今村同様、打者がバントしなかったのはボール球だった。2対2の同点の8回裏は、残りの攻撃が1回しかなくどうしても点をやれない場面。サヨナラのピンチだった12回裏は、一塁走者が俊足の1番打者だったが、二塁送球のそぶりすらなかった。ちなみに、けん制球も12回裏の2球目の前に1球投げただけだ。
 バントしづらい球を持つだけでなく、クイックも1.1秒台とうまいだけにもったいない。相手の送りバントへの考えを捕手の福本匠に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「バントはやらせてひとつアウトを取るという考えです。国士舘だから? いえ、これは相手がどこであっても変わりません。投手のけん制? 僕がサインを出します」
 この日の試合展開なら、無理に二塁に投げる必要はない。だが、バントを防ぐ努力はしてもいいはずだ。あれだけの球を持っていて、ファウルすら1球もないというのは寂しい。

肝に命じてほしい“勝負”の意味

 第1試合では2対0とリードする報徳学園高(兵庫)が6回無死一塁、昨夏の甲子園で本塁打を放っている4番の西郷遼平に、第2試合では3対0とリードする清峰高が8回無死一塁でこれまた昨夏の甲子園で本塁打を放っている山嵜健太郎に送りバントをさせた。
 リードをしているチームがそうまでして追加点を取りにきているのに、守る高崎商高(群馬)、日本文理高はまったくの無策。あっさりとバントを決められたうえ、二塁で刺そうという姿勢がまるで見られなかった。あえて4番に送らせたのに、それがもし併殺にでもなれば、相手はダメージが大きいはず。一気に流れが変わる可能性もある。両校ともに序盤のチャンスを逃した後は、まったくといっていいほど点が入る雰囲気がなかっただけに、セーフになっても仕方がないぐらいの気持ちで、二塁でアウトにしようという配球、守りを見せてほしかった。

 こんな状況だからこそ、大会初日に好ダッシュでバントされたゴロをつかみ、思い切って二塁へ投げてアウトにした金光大阪高(大阪)の捕手・中島惇志、投手前のバントを併殺にした中京大中京高(愛知)・堂林翔太のフィールディングが光る。バント処理について尋ねると、堂林はこう言っていた。
「中学校のときショートをやっていたので、自信があるんです。いつも(二塁でアウトにするのを)狙ってます」

 バント失敗は流れを変える可能性が大。守備からでも流れを変えることはできる。安全策ばかりでは何も変わらない。リードされているチームは特に“勝負”。これを肝に命じて相手の送りバントに対峙してほしい。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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