湘南・反町康治監督、失意からの再出発=インタビュー
今季から古巣・湘南の指揮を執る反町監督。原点に戻る意味も込めてオファーを引き受けた 【スポーツナビ】
監督になってしまうと誰も教えてくれない
このクラブ出身だということは当然あります。それに自分も原点に戻ってもう一回、足元から指導者としてやり直そうと思ったこともあります。そういう意味では非常にいい機会でした。
あとは、湘南のクラブチームとしての理念ですね。親会社を持たずに、地元に密着して草の根からやろうとしています。サッカーだけではなくてトライアスロン、ビーチバレーなど多岐にわたって湘南地域のスポーツの活性化をやっている。それは、(以前監督をしていた)アルビレックス新潟にも少し重なるところがあります。そういう総合スポーツクラブという環境が魅力的だと思いました。
――湘南が長くJ1に昇格できないことにOBとしてはどういう思いがあったのでしょうか?
(J1に上がってほしいという気持ちが)ないといえばうそになりますよね。でも自分が監督になったからといってすぐに上がれるわけではない。だから、より努力をして、より勉強していかなくてはいけないと強く感じています。
監督という職業は、なってしまうと誰も教えてくれない。コーチの場合は、監督が言うことなどいろいろと勉強になりますが、監督は自分で向学心を持たないといけない。海外(研修)であったり、文献を読んだり、海外の試合を見たり。自分も選手と同様に成長するためにいろいろなアンテナを張らないといけない。J2の舞台というのは相手からたくさん学ぶこともあるリーグなので、成長ということを考えると自分にとってはプラスだと思います。
オシムさんは師匠のような存在
一緒にやっているときは学ぶというよりも一緒に戦うという感じで、日本代表を強くすることに力を使っていました。ただ、今考えてみるとトレーニングの方法、サッカーへの考え方、着眼点などはものすごく参考になりました。わたしはコーチの経験がないので、初めてそういう立場になっていろいろと考えさせられました。師匠のような存在ですね。
オシムさんはやっぱり厳しい人。本当はすごく温かい人なんですが、サッカーに関しては妥協しない。そしてアイデアもすごい。こういう練習をやるなんて言わなくても、(練習場に)着いたらふっと(メニューが)沸いてくる。それから、数字に強い。例えば9人ずつ3個所で練習しているときに、もし1人いなくなっても、オシムさんの場合はすぐに違う練習が頭の中に出てパッとできる。4対4プラス3対2プラス1対1でやってくれとか言うんですが全部数字が合っている。間違ったことは一回もない。だから、数学でものを考えているのかなと思いますね。
この前、(ドイツ・ブンデスリーガの)ホッフェンハイムに行ったんですが、ヨーロッパでは数字の理念が強い。数字で表すということは具体性が出てくる。日本ではそれが弱いのですごく抽象的にサッカーをとらえているのかもしれない。(ホッフェンハイムの)ラングニック監督も数字の理念が強かった。そこは勉強になって、わたしも数字を大事にするようになりました。
オシムさんも変な練習はあるんです。最初は選手も乗っていない。でも、タッチ数を減らしたり、(コートの)大きさを変えたり、フリーマンを入れたりして、ちょっとずつ変えていくと断然よくなっちゃうわけです。どうやったら解決の糸口、練習の意図がしっかりと見られるかというアイデア。オシムさんが「選手に創造性を求めるなら、指導者に創造性がないと意味がない」というのを聞いて、もっともだなと思いましたね。
オシムさんの頭の中には次の相手のイメージがあって練習をしている。よく言うのは「ちゃんと練習をこなしていれば、相手の分析の話をしなくても体が十分に順応できている」と。
オシムさんは、次はどことの試合だから特別にその相手を見ようとかじゃないんです。家に帰ってきたら常にJリーグの試合を見ている。だから、次の相手のイメージが全部できている。J2も見ているから、「あの選手いいな」なんて話してきて、こっちは知らないから、「見てないのか」って感じだから。そういった意味での、サッカーにおける情熱とか幅の広さというのは違いましたね。