“戦国”女子バレー 首位NECの鍵を握る2人=Vプレミアリーグ

田中夕子

大混戦のVプレミアリーグ。女子首位に立ったNEC、“戦国”リーグを勝ち抜く鍵は!? 【坂本清】

 今季のVプレミアリーグは、男女ともに混戦模様だ。
 とくに、サントリー、東レが鼻差でやや抜け出した感もある男子に比べ、女子はNEC、東レ、デンソー、久光製薬と4チームが12勝で並ぶ。5位の岡山シーガルズもその差はわずか1勝だ。
 そのなかで、女子は2レグ終了時点(2月8日)で、NECが首位に立った。2004−05シーズンの優勝後は、6位、5位、6位とファイナルからも遠ざかっていたNEC。“戦国”リーグを勝ち抜く鍵を握る、2人の選手とは。

まさかの敗戦

 2008年、12月の天皇・皇后杯。
 チームの地元・川崎市で行われたトーナメント戦で、NECレッドロケッツはまさかの初戦敗退を喫した。相手は大学生。いくら試合経験の少ない若手主体での出場だったとはいえ、あってはならない醜態をさらした。
 責任をとり、山田晃豊監督以下、スタッフの数人が丸刈りになり、チームの立て直しが急務に掲げられた。なかでも、最も多くの時間を要したのが「コンビ」。単発のコンビ練習だけでなく、サーブカットからのコンビ、相手の攻撃からの切り返し、ローテーションごとにさまざまなパターンを想定した練習が繰り返された。
 屈辱の払拭(ふっしょく)。浮上の鍵は、2人の選手に託された。

“次世代の柱”セッター秋山美幸

試合ごとに成長を遂げるセッターの秋山 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 筆頭は、セッターの秋山美幸だ。
 今季で2年目を迎えた司令塔、身長は163センチと小柄だが、最高到達点は290センチ。抜群の運動能力を誇る。「献身さ」と「誠実さ」、そしてセッターには必要な「頑固さ」を持ち得る稀有(けう)な選手であり、吉川正博・NEC前監督も「攻撃的なトスを上げるのではなく、その選手を生かし、伸ばすことができる。ひたむきで、なおかつ内に秘めた闘志がある。間違いなく、次世代の柱になる選手です」と秋山を高く評価する。
 しかし、今ひとつ、結果を出せずにいた。
「苦しくなると、どうしてもサイドへトスが偏ってしまいがち。このままじゃ、ダメだと思うんです」
 天皇・皇后杯を終えてから、秋山はセンター線の杉山祥子、松崎さ代子とのコンビ練習に時間を割いた。杉山の“代名詞”とも言うべき、スピードを生かしたライトへ移動してのクイックも、他チームは常にマークしてくる。そこでA、Bクイックなどを増やしただけでなく、センターをおとりに入れた、バックセンターからの高速バックアタック(パイプ)も積極的に取り入れた。
 成果は早々に表れた。
 年明け初戦、1月10日のパイオニア戦。レフト、ライトへの平行トスだけでなく、ラリー中も松崎のクイックを使うなどバックも絡めたセンター線の攻撃が効果を発し、相手ブロックに的を絞らせない。鮮やかなストレート勝ちで、“惨敗”の残像を振り払った。
「ただコンビを合わせるだけじゃなくて、信頼関係をつくるための練習もしてきたその成果だと思います。同じことを繰り返していたら意味がないですから」

攻守に強い、新人ウイング内田暁子

ウイングスパイカーの内田(中央)。攻守でのベストプレーを心に誓う。写真右は成田郁久美 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 そして、もう1人。
 今季から全日本を率いる真鍋政義・久光製薬監督が、リーグ開幕直前の懇親会の席で、かつてはともに日本代表として戦った竹内実・NEC男子監督にポツリとつぶやいた。
「今年のNEC女子はええな、何より、あいつがええわ」
 真鍋監督が“あいつ”と指したのが、他でもない。鍵を握るもう1人の選手、新人の内田暁子だ。
 身長は173センチ、決して大型選手ではない。だが、堅実な守備とスピードのある攻撃、さらには青山学院大学在籍時から発揮してきた、ここ一番の勝負強さ。現在は敵将である真鍋監督いわく、「ああいう選手がいるチームは強い」。
 セッターのトス、コンビを生かすには、サーブカットを正確に返すことが第一条件である。現在のNECで、内田に期待する最も大きなポイントもそこだ。1つ年上の秋山とは大学時代から同じチームでプレーしており、信頼関係も築かれている。
「リベロよりもレシーブがうまく、誰よりも速い攻撃ができるサイドプレーヤーを目指したい」と高い志を抱き、内田は開幕からスタメン出場を果たした。
 しかし、いきなりの2連敗。明るさと元気が魅力の内田だが、思うような結果が出せない焦りから、消極的なプレーが目立つようになる。
「自分の持ち味とか、スタイルとか、そういうものが出せなくて。(内定出場した)去年は怖さなんてなかったけど、今年はいろいろ考えちゃって」

 そんな内田を救ったのが、チームの助っ人、ブラジル人のアナパウラ・フォフィーニャだった。
「壁に当たって、プレーが小さくなっていたときに、フォフィから『キョウ(内田のコートネーム)は自分のプレーを、自信を持ってやればいいんだよ』と言われて、フッと楽になれた」
 1月17日、“因縁”の、天皇・皇后杯以来の川崎市とどろきアリーナでのNECホームゲーム。
 対するは、巧妙なコンビバレーを持ち味とする岡山シーガルズ。NECが苦手とする相手だ。しかしそんな強敵を前に、内田が本来の姿を取り戻す。ラリー中の連続スパイク、拾い負けない粘りのレシーブ。最後は自らの1枚ブロックで決勝点を刻んだ。
「いつも、フォフィが助けてくれる。大丈夫、もう吹っ切れました」

秋山(左)と内田は、青学時代の先輩後輩でもある 【坂本清】

 豊富な経験を持つベテラン選手と、鍵を握る若手の融合。そして、心をも支える優勝請負人の存在。敗れた試合と同様に、6連勝を含むNECの快進撃には、確かな理由が存在した。
 とはいえ、それでも独走モードへ突入できないのが、今年の戦国リーグ。現在上位の5強がこのまま上位争いを繰り広げるのか、はたまた6位以下のチームが巻き返す大逆転劇が起こるのか。
 果たして、最後に笑うのは――。


<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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