イチロー、2度目のWBCへかける思い

木本大志

“変ぼう”が話題になった前回

感情を隠さず表に出し「変わった」と言われた第1回WBCでのイチロー 【Getty Images】

 2006年の第1回ワールドベースボールクラシック(WBC)が終わった後、誰もが口をそろえた。「イチローが変わった」と。正直、ピンとこなかった。試合後の発言のことか?

 2次リーグで韓国に負けた後、「野球人生で最大の屈辱」などと、確かに普段よりも熱〜いコメントが続いた。逆に準決勝で韓国に雪辱を果たした直後は、あるテレビリポーターが「あの時は、人生最大の屈辱とおっしゃいましたが……」とマイクを向けると、「“人生”最大じゃなくて、“野球人生”最大。もう1回最初からやろうか(笑)」と茶目っ気を見せるなど、素をさらした。

 ただ、そうした発言は珍しいものではなく、普段の取材でも日によっては饒舌(じょうぜつ)になる。昨シーズン最終日などは、文字に書き起こせない言葉を連発。漫談だった。

 テレビ取材を毎試合受けたという意味では、「変化」ととらえられなくもない。シーズンに入れば、テレビカメラの前に立つことは数えるほど。毎日のように彼がテレビに登場すれば、それは確かに新鮮でもある。

「チームっていいな」に込められた思い

 大会が終わり、ややあってひざを打った。ああ、このことかと。

 味方がタイムリーを放てば派手なガッツポーズをとり、2次リーグで韓国に負けた瞬間には、明らかに「F%&**#K」と、テレビカメラの中のイチローが叫んでいた。そうした瞬間は、逆に現場では分からない。あとから総集編のような番組を見てそれを知った。

 そんなシーンを目の当たりにすれば、確かに「変わった」と誰もが思うだろう。シアトルでマリナーズを取材している限りは、目の前のモニターがあるのでダッグアウトの様子も分かるが、そうしたイチローを目にしたことはない。かつてのチームメートや、地元記者に記憶をたどってもらっても首を振るだけだった。

 そこへイチローを駆り立てたものとは何だったのか?「JAPAN」のロゴは、そこまで人間を変えるのか? 「王監督に恥をかかせるわけにはいかない」と、強い気持ちを持って臨んだ大会ではあるが、それがどう作用したのか?

 マリナーズの不振から来る、勝利への飢え。勝ち進むうちにどんな感情がわき上がって来たのか。振り返れば、決勝でキューバを下した翌日だったか、「チームっていいな」と話したイチローの言葉には、いろんなものが込められていたような気がする。

監督人選に異を唱えたが…

連覇をねらう今大会でも自分自身に相当のプレッシャーをかけて臨む 【Getty Images】

 さて、そうしたいきさつがあっての今回。当初は距離を感じた。

 昨季のシーズン最終日、WBCの出場について聞かれたイチローは、「あのとき(WBCが終わった直後)、『3年後も、選手としてそうでありたい、選ばれる状態にありたいと思っています』と言ったんですけども、それが達成できていればうれしいです」と、彼にしては珍しく歯切れが悪かった。

「出る!」の一言で見出しが立ちそうだったが、それを期待したメディアは肩透かしをくらった気分。

 だからこそ、慎重だったイチローが監督の人選に異を唱えたことには違和感があったが、彼は嫌な役回りを引き受けたように思う。

 最強チームを作ろうとするとき、最初から現役監督を排除してしまうやり方では確かにそれを否定する。結果として監督が現役監督ではなくとも、条件があること自体矛盾につながる。
 それはおそらく、人選にかかわった人間――監督の選考委員会なのか、チームの組織委員会なのか分からないが、そこから出るべきはずの発言。それが出ないからこそ、イチローが首をかしげたのだが、彼に対する嫌みを口にする人もいたようだから、その意味では覚悟を必要としたかもしれない。

 ただ、そこまで口を挟んだからには、前回以上に、自分自身に相当なプレッシャーをかけて彼は今大会に臨むのだろう。自分で自分を追い込んだとも言える。

 おそらくキャンプに入れば、新聞のヘッドラインを飾るような発言を今回も連発するのではないか。

 それが今回の大会におけるイチローの変化、本気度を知るバロメーターにもなり得る。
 間もなく始まる合宿初日から、彼の発言に注目していきたい。

<了>
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