伊達、杉山が見せた“復活劇”=全豪テニス

内田暁

得意のエアケイも不発に終わり、初の全豪は初戦敗退に終わった錦織 【Photo:Getty Images/アフロ】

 全豪オープンテニスの会場を出た時、日中はあれほど暑かった外気がひんやりとして、Tシャツ1枚では肌寒いほどだった。時計の針は、朝の3時を回っている。黄色いシャツを着た会場の係員たちが、眠そうに目をしばたかせ、それでもこちらの顔を見ると、「お休み。また来年!」と、笑顔で声を掛けてくれる。

 メルボルンを襲った熱波が連日、気温40度を越す記録的な暑さを引き起こしたり、昨年の男子シングルス王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が、その暑さにやられて棄権したり、ストリーカー(全裸の乱入者)が登場したりと、さまざまなことが起きた長い2週間が終わった。初めて全豪に出場する錦織圭(ソニー)、そして13年ぶりに帰ってきたクルム伊達公子(エステティックTBC)ら、何かと話題の多かった日本人選手たちが会場を沸かせた日々も、もう遠い昔のように思えてくる。
 だが優勝者も決まった今、改めてこの2週間を振り返ると、彼ら日本人選手の動向も、今大会に貫流する大きな潮流の一端だったように思えてくるのだ。

2強が、追撃する若手に“待った!”をかけた男子

 昨年のウィンブルドンに続き、フルセットの大熱戦となったラファエル・ナダル(スペイン)とロジャー・フェデラー(スイス)の男子シングルス決勝は、結果もウィンブルドン同様、ナダルの勝利。スピーチの途中でかつての“絶対王者”フェデラーが流した涙、そして、すべての感情を分かち合うようにフェデラーの肩を抱き寄せたナダルの姿は見る者の胸を打ち、そしてそれは、二人のライバル関係が、いかに特別なものかを象徴するシーンだった。

 だが今大会が始まる前、テニス関係者やファンの話題を集めていたのは、この二人ではなかった。過去の二人の戦績を考えれば意外かもしれないが、新しい物好きな世論は、現在絶好調の21歳のアンディ・マリー(英国)や、昨年の全米で錦織を破った若手の急成長株、20歳のフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)らに熱い視線を送り、「世代交代の日は来たり」といった雰囲気が、メルボルンを覆っていたのだ。
 だが、そのマリーは8強入りを逃し、デルポトロも同じく準々決勝でフェデラーに、3−6、0−6、0−6のスコアでひねりつぶされた。シーズン明けの直後に行われる全豪は、どのようにオフを過ごし、そしていかに新シーズンに入ってくるかにより、成績が左右される。それらの経験値も含め、今大会は、ナダルとフェデラーの2強が、追撃する若手に「まだまだ俺たちに勝つのは早いと」と、待ったをかける結果となったのだ。

準備不足で初戦敗退した錦織

 昨年12月29日に19歳になったばかりの錦織も、今大会はその「苦闘の若手」の一端を担うことになってしまった。
 シーズン開幕早々、世界20位(当時)のトマス・ベルディフ(チェコ)を破る最高のスタートを切った錦織だが、その翌日から、右腕の痛みに悩まされることになる。結局、腕の痛みは大会直前まで取れず、練習もほとんどできないまま本番に挑んだ。その結果、心身ともにグランドスラムを戦う準備が整えられず、初戦で世界32位(当時)のユルゲン・メルツァー(オーストリア)にストレートで敗れた。
「腕の痛みは、ちょうど試合当日に取れた」とは本人の弁だが、けがに関して錦織サイドからは「シーズン開幕直後に見られる、典型的な症状。オフシーズンで2カ月ほど試合をせず、その間に厳しい練習を積み、そして実戦に入るとこのような症状が出やすい」との発表があった。

 錦織にとって昨年末は、本格的にツアーを周り出して初めて迎えたオフシーズン。その間、トレーニングを積んできたのはもちろんだが、チャリティーマッチに出場したり取材を受けたりと、試合以外での「トッププロ」としての責務も果たしてきた。何もかもが初めてで、試行錯誤の中で迎えた今回の全豪で真の力を発揮できなかったのは、ある意味、必然だったかもしれない。
 その錦織は、2月9日から米国・サンノゼで開催されるSAPオープンに出場。サンノゼは昨年、アンディ・ロディック(米国)に“威嚇”され、敗れた場所。一年前に得た経験値を今度はいかに生かすか、注目である。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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