大久保はスタメンを奪えるのか?=ドイツデビューを前に集まる期待

木崎伸也

「大久保を見ていると、目の保養になる」

大久保の移籍はマガト監督(左)の希望もあって実現した 【写真は共同】

 いささか不思議な気分である。
 ボルフスブルクのフェリックス・マガト監督は、ドイツ・ブンデスリーガの中でもこわもてとして知られる鬼軍曹だ。ついたあだ名は「独裁者」。怒らせたら何をしでかすか分からず、昨年10月のバイエルン・ミュンヘン戦(4−2でバイエルンが勝利)でMFのサンタナが決定機を2度も外すと、マガトはこのパラグアイ代表を翌日から2軍に落としてしまった。監督・スポーツディレクター・取締役の3役を兼任するマガトは、クラブの人事権のすべてを握っており、スタッフの誰もが彼の顔色をうかがって過ごしている。

 しかし、その独裁者が、大久保嘉人のことになると、全くの別人になってしまうのである。
 1月15日のグロイター・フュールトとの練習試合後、マガトはニコニコしながら言った。
「大久保を見ていると、目の保養になるね」
 褒めて伸ばすという意図があったとしても、まさかこんな表現をマガトが使うとは……。

「もちろんもっとコンディションを上げてほしい。だが、選手としての才能は、もう十分に分かった。彼がボールを持つと、実に面白い」

練習試合2戦連続ゴールと順調なスタート

 日本のサッカーファンの中には、大久保のボルフスブルク移籍に懐疑的な見方の人も多いと聞く。ボルフスブルクには優れたアタッカーがそろっており、とてもレギュラーにはなれない、と分析して。
 だが、マガトが大久保について話すときの表情を見れば、そういう懐疑心は一瞬にして吹き飛ぶに違いない。マガトは大久保が高校生のときから目をつけており、シュツットガルトの監督時代(2001〜04年)も獲得しようとしたほどの“お気に入り”だ。自分の鑑識眼を証明するためにも、この日本人アタッカーにチャンスを与えるはずだ。

 実際、すぐに大久保には力試しの機会が与えられた。1月中旬のスペイン合宿で、マインツとグロイター・フュールト(ともにドイツ2部)の練習試合2戦に出場したのだ。
 大久保は監督の期待に後押しされるように、すぐに結果を手にする。チームメートとのコンビネーションから、2試合連続でゴール! 練習試合とはいえ、ドイツのマスコミに実力を認めさせたという意味で、価値ある2ゴールになった。
『ボルフスブルガー・アルゲマイネ』紙は、こう絶賛した。
「小さくて、速くて、機敏で、足取りが軽い――大久保!」

 1月28日のドイツ杯3回戦(ロシュトック戦)、および1月31日のブンデスリーガ再開(ケルン戦)に向けて評価の貯金を作ることができた。
 大久保は言う。
「スペインのときはFWしかできず、前にガツガツ行くだけだった。けれど、(ヴィッセル)神戸でサイドのMFとか、今まで経験したことがないポジションをやって幅が広がった。だから、自分がどこまでできるかドイツで試したいと思ったんです。マガト監督は優しくしてくれます(笑)。ずっと自分を気にかけてくれていたというのはうれしいこと。何とか期待に応えたい」

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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