広島皆実が見せた「堅守強攻」の証し=高校サッカー決勝

平野貴也

聖地・国立競技場を舞台に全国制覇を懸けて熱戦が繰り広げられた 【たかすつとむ】

 オールラウンダーの真骨頂を見せ付ける勝利だった。広島皆実(広島)は、今季から掲げた「堅守強攻」の真価をファイナルゲームで見事に発揮した。相手は2トップがともに全試合で得点し、決勝まで5試合で27得点と爆発的な攻撃力を誇る鹿児島城西(鹿児島)。対する広島皆実はわずか1失点で勝ち上がって来た。

 当然、試合前の展望では「鹿児島城西の攻撃力vs.広島皆実の守備力」という構図が浮かび上がった。しかし、広島皆実には「守って勝つ」という意識はなかった。高卒でプロに進むような突出した選手はおらず派手さはないが、守備だけでなく中盤の構成力やボールポゼッションにも自信があった。そして、何よりも2大会連続のベスト8で、その先に進むための課題として攻撃力も磨いてきた。
「堅守速攻」と評されるチームが「堅守強攻」とわざわざ別の言葉を選んでスローガンとしたのは、その壁を乗り越えるためだ。だからこそ、鹿児島城西を相手に自信を持って選んだ方法は「打ち合って勝つ」だった。

大迫勇に新記録許すも狙い通りのサイドチェンジで逆転

 雪交じりの雨が降り、照明の灯った国立競技場で、キックオフからすかさずペースを握ったのは広島皆実だった。前半10分には完全に主導権を握り、ポゼッションしながら得点機会をうかがう王道の展開に持ち込んだ。
 中盤では圧倒的な寄せの早さを見せ、鹿児島城西が狙うエースFW大迫勇也へのパスコースを断ち切り、チャンスを作らせない。しかし、前半20分に大迫勇にボールが渡ると、3人がかりで囲んだにもかかわらず、ボールはスーパーストライカーの左足にこぼれ、大会新記録の個人10点目となるゴールをたたき込まれた。
 崩されてもいないし、大きなミスもしていない。ただ、エースにボールが渡ったというだけの止めようのない失点だ。おそらく、広島皆実がこれまでの試合のように守備をベースに考えて「1点取ることができれば勝てる」という気持ちで臨んだならば、精神面で立ち直ることができなかっただろう。しかし、打ち合いを覚悟していた彼らの気持ちは落ちなかった。

 広島皆実は失点前の前半10分、右から左へ斜めの大きな一蹴りで相手の4バックを突破した。パスを受けたMF谷本泰基は「前日に相手の試合のビデオを見て、バックラインがボールウォッチャーになるという印象があったから、サイドチェンジが効くと思っていた」と話す。失点から3分後、左サイドを突破した浜田晃がクロスボールを放つと、右MF佐々木進がヘディングで中央へ戻し、FW金島悠太がやや体軸の後方でバウンドしたボールを見事なハーフボレーで突き刺して同点とした。
 さらに、右から左への大きなサイドチェンジから、今度は左MF谷本がミドルシュート。一度は焦ってDFのブロックに遭ったが、もう一度足元に来たボールを今度はコントロールしたシュートで逆転に成功した。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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