世界が認めた「GAMBA OSAKA」=3位決定戦 パチューカ(メキシコ) 0−1 ガンバ大阪

下薗昌記

G大阪は世界の舞台でも攻撃サッカーを貫き、クラブW杯3位の座を手にした 【Getty Images】

 アジア王者として2年連続で日本勢が挑んだFIFAクラブワールドカップ(W杯)で、ガンバ大阪は「世界3位」に輝いた。「クラブW杯でもACL(AFCチャンピオンズリーグ)のスタイルを出し切りたい」(西野朗監督)。アジアを制した攻撃サッカーを世界のひのき舞台でも、と願った指揮官の意図を十二分にくみ取った“西野チルドレン”たちは、世界の強豪を相手にあくまでも攻撃サッカーを完遂した。「戦い方は十分に通用した」と遠藤保仁が語ったように、3位という表面的な結果以上に得た自らのスタイルへの自信は、クラブにとっての貴重な経験値、そして日本サッカー界への新たな刺激となった。

指揮官が繰り返した「1勝」の言葉

「1勝を大目標に。今大会はクラブにとっていい財産になる」。大会前、日本人監督として初めて挑むクラブW杯について、西野監督は「1勝」という言葉を繰り返すにとどまっていた。2008年のアジア年間最優秀監督は、常に高みを目指すのが基本的なスタンスである。だが、今季はACLを含めて控えめな口ぶりに終始した。その胸の内はこうだ。
「出場するからには、ガンバの色とスタイルを出すチーム力が出ればいいと思うけど、(力が)足りないというジレンマがある」

 一方で「1勝」を強調したのは、単に準々決勝での勝利を求めた訳では決してなかった。
「あのマンU(マンチェスター・ユナイテッド)とやれる。そのために1戦目が重要になる」

 大会初戦となった豊田スタジアムでのアデレード戦は、「2回負けているから死に物狂いで来るはず」という山口智の懸念通り、「3度目の正直」を狙うアデレードがACL決勝とは違った戦いぶりを見せる。ただ、この試合に関しては、常に自分たちの立ち位置を冷静に見る橋本英郎が「ACL決勝の続きのようなもので、世界を感じるのはその次から」と分析したように、すでに知る「アジア基準」がクラブW杯という枠組みの中でぶつかり合ったにすぎない一戦だった。

「4−2−3−1の精度を上げれば大会でも通用するはず」と西野監督が大会前に自信を口にした現状でのベスト布陣だったが、前半早々に佐々木勇人が負傷退場したことで、プランが大きく崩れ去る。ただ、結果的に余儀なくされた4−4−2への原点回帰が功を奏し、G大阪はリベンジを狙うアデレードを1−0で辛うじて退け、欧州王者への挑戦権を獲得した。

パスサッカーへのこだわり

「代表ではアルゼンチンが過去最強だと思ったけど、もしマンUとやれれば、ガンバでは間違いなく最強の敵になる」。チームで最も世界との距離感を体感している遠藤にとっても、欧州王者との一戦は特別なものだった。パスサッカーへのこだわり――。G大阪の強みの一つは、高い技術を誇る中盤のタレントが見せるあうんの呼吸にある。

 その真骨頂が発揮されたのが、マンチェスター・ユナイテッドとの準決勝だった。佐々木のみならず、チーム一のパスセンスを持つ二川孝広もアデレード戦で負傷退場し、この試合を欠場。今季は基本となる4−4−2以外に3−5−2、4−2−3−1とさまざまな布陣を柔軟にこなしてきたG大阪だが、主力2人を欠いた大一番に初めての布陣が登場する。「ボランチは久しぶりだったけど、違和感なくやれた」(遠藤)。中盤の底に遠藤を下げ、そのフリーランで遠藤を最大限に生かすすべを知る橋本が、ルーカスとともに2列目に並ぶ形を採用したのだ。

「(対戦すれば)木っ端みじんになる」「ボールに触らせてもらえないかもしれないし、体に触らせてくれないかも」。対戦前はあまりの戦力差に極端な言い回しを多用した西野監督だったが、本音は違った。
「ファーガソンといえども、同じ土俵で戦っていると思いたい自分もいる」

 確かにG大阪との準決勝では、マンチェスター・ユナイテッドが欧州のステージで見せるすさまじいまでのプレスは鳴りを潜めていた。「完全に本気だったかというと違う」と遠藤が言うように、普段と異なるテンションだったのは否定できない。だが、ボランチに遠藤を配置した布陣が、G大阪のパス回しの呼び水となったのは紛れもない事実だった。
 ほかならぬファーガソン監督も、試合後に明かしている。「遠藤がストライカーの後ろでプレーするということで準備してきたし、ルーカスが前に出ると思っていた」。隠れた西野監督の名采配(さいはい)と言ってもいいだろう。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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