過去を払しょくしたパチューカ=準々決勝 アルアハリ 2−4 パチューカ

宇都宮徹壱

「5位決定戦」復活の背景にあるもの

ドリブル突破を図る「エジプトのジダン」ことアルアハリのアブータリカ(右) 【Getty Images】

 FIFAクラブワールドカップ(W杯)も13日から準々決勝。この日はアフリカ王者、エジプトのアルアハリと北中米カリブの覇者、メキシコのパチューカが準決勝進出を懸けて対戦する。アルアハリは今回が2年ぶり3回目の出場、対するパチューカは2年連続で2回目の出場。いずれもこの大会では、常連といってもよい存在である。

 試合に入る前に、ここで今大会のレギュレーション変更について言及しておきたい。それは「5位決定戦」の復活である。「何だ、ビリ決定戦じゃん」と思う方は、ちょっと認識不足。現在のクラブW杯は7チームが参加なので「ビリ決定戦」ではない(今大会の場合、開幕戦で敗れたワイタケレが事実上7位の扱いとなる)。
 この5位決定戦が、前回大会では行われなかった。正式な理由はアナウンスされていなかったが「客が呼べない」という切実な問題があったことは見逃せない。いくら日本人選手を起用したところで(05年のシドニーFCには三浦知良が、06年のオークランド・シティには岩本輝雄が、それぞれ期限付き移籍していた)、やはり集客には限界もあるし、大会運営のあり方としても健全ではない。こうした背景も、5位決定戦の廃止に少なからず影響を与えたのではないかと、個人的には考えている。

 ところが、この「客が呼べない」試合の廃止は、大会に新たな問題が生じさせることとなる。準々決勝で敗れて、たった1試合のみで日本を去らねばならないチームが出てしまったのである。その“犠牲者”となったのがパチューカであった(ここでようやくこの日の試合の話につながる)。昨年、楽しいパスサッカーを披露してくれたものの、エトワール・サヘル(チュニジア)の堅守に阻まれ、0−1とわずかな差で敗れたパチューカは、このたった1試合のために地球1周分の移動を強いられた。パチューカの選手たちの悲嘆ぶりを見て、さすがに「これはまずい」と主催者側も考えたのか。今大会から5位決定戦は復活し、18日の準決勝とセットで行われることとなった。平日の16時30分キックオフは、集客の面でいささかつらいものがあるが、昨年のパチューカの悲劇を繰り返すよりははるかにマシである。この判断については、私は大いに評価したい。

 ところで初戦で敗れる悲哀といえば、アルアハリにも苦い経験がある。05年の初戦でアルイテハド(サウジアラビア)に敗れたアフリカの“赤い悪魔”は、さらに5位決定戦でもシドニーFCに敗れ(「カズ効果」で会場の観客は一斉にアンチに回った)、最下位に甘んじるという屈辱を味わっている。大会が楽しい思い出となるか、それとも苦渋に満ちたトラウマとなるか、すべては初戦の結果次第。であるがゆえに、この日の試合で両者がどのような試合運びを見せるかが、ひとつの注目点となっていた。

まったく無駄がない、アルアハリのカウンター

 序盤はパチューカのペースで試合が進む。北中米カリブの王者は3−4−3のシステムで、ワイドにゆったりとボールをつなぎ、余裕をもってチャンスを手繰り寄せようとする。ディフェンスラインから前線にかけての距離が極端にコンパクトで、緩急のメリハリが実に明確。長くゆったりしたパスから、次第にその間合いと精度を詰めていく。
 それに対して4−4−2のアルアハリは、しなるようなディフェンスで相手の勢いを殺し、スキあらば刺すようなスルーパスを繰り出してくる。ポゼッションではパチューカが圧倒するものの、しかしボールは左に右に流れるばかりで、なかなか前進しない。むしろ縦方向への意欲は、アルアハリの方が上回っている印象である。

 それにしてもなぜ、パチューカは仕掛けないのだろうか。
 試合後の会見で問われたエンリケ・メサ監督は「選手たちはボールをタッチするたびに『今日はこういうプレーをしよう』と判断する。少しずつ(ゲームの中で)調子を上げていくものだ」とコメントしている。おそらくそれが、メキシコのリズムというものなのだろうか。ともあれパチューカのサッカーが、ようやく“温まって”きたと感じられたのが、前半20分を過ぎたあたり。パスの速度が増し、受け手の動きも活発になっていく。だが、この試合最初のゴールは、見る者の意表を突く形で生まれた。

 前半28分、ハーフウエーラインでの競り合いに勝利した「エジプトのジダン」ことアブータリカが、そのままドリブルで左サイドを駆け上がる。このカウンターに、3バックでラインを高めに設定していたパチューカ守備陣が一瞬パニックに陥った。慌てて戻る相手ディフェンスの間隙(かんげき)を突こうと、アブータリカが低いクロスを折り返すと、これがDFピントの足に当たって、そのままGKカレロの逆を突くニアに転がっていく。ボール支配率で圧倒していたパチューカ(65%はあったのではないか)に対し、アフリカ王者はたった1回のチャンスで見事、先制ゴールを挙げてしまった。

 アルアハリのサッカーは「アフリカのスタイル」というよりも、むしろ典型的なアラブのそれであるといえよう。ただし、われわれがW杯予選やACL(AFCチャンピオンズリーグ)で目にするような中東のサッカーと比べると、戦術的にも技術的にもはるかに洗練されている。すなわち、カウンターの鋭利さに、まったく無駄がないのだ。
 その真骨頂といえるのが、前半終了間際の45分に見せた、追加点のシーンである。センターバックのクリアボールをハーフウエーラインでアブータリカが受け、縦に抜け出た8番のバラカトにパス。そしてバラカトがセンターに折り返し、待ち構えていたアンゴラ人FWのフラビオが右足で豪快に蹴り込む。今度は文句なしのゴール。たった2つのチャンスを、いずれもゴールへと結びつけたアルアハリが、試合を2−0で折り返した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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