ワイタケレのわずかな前進=開幕戦 アデレード 2−1 ワイタケレ

宇都宮徹壱

主導権を握り続けるアデレード

先制点を決めたシーマン(手前)。ワイタケレは逆転負けを喫したが、チームレベルは明らかに上がってきている 【Getty Images】

 ワイタケレは2トップ、アデレードはクリスティアーノを前線に置いた1トップ。ただし、どちらもきれいな4バックだ。そして両チームとも、やたら声がでかくて、荒削りなロングパスを蹴り合っている。何だか外国人同士の草サッカーを見ているような、ほのぼのとした気分になってくる。いや、こういうシチュエーションは、決して嫌いではない。とはいえ、「クラブ世界一決定戦」のオープニングゲームが、これでいいのだろうか。幸いスタンドの観客は、それなりにゲームを楽しんでいる様子だ。

 ボール支配率はアデレードが圧倒。いつゴールが決まっても不思議でない展開が続く。だが前半34分、ゲームは意外な方向に転がり始める。右サイドの遠めからのワイタケレのFKに対し、アデレードのGKガレコビッチが思わずファンブル。こぼれたボールに、誰よりも早くウェールズ出身のシーマンが反応して、右足でネットを揺らした。ワイタケレ先制! 思えば、前回大会のワイタケレのゴールは、相手のオウンゴール。しかも3点リードされてからの、ささやかな反撃でしかなかった。今年のワイタケレは、1年前と比べると明らかに成長の跡が見られる。
 しかし、アマチュア軍団の歓喜は、わずか5分しか持続しなかった。前半39分、リードからのコーナーキックに、右サイドバックのマレンが教科書通りのヘディングシュートを決めて同点とする。このまま1−1で前半は終了。

 後半もアデレードが主導権を握り続ける。このチームで最も目を引いたのは、左サイドバックの14番、ジャミーソンだ。積極果敢なドリブルと、左足から繰り出す精度の高いキックが武器の20歳。Jリーグでは来年から「アジア枠」が導入され、オーストラリア国籍の選手もこれに該当するのだが、この若きレフティーなら間違いなくJでも活躍するだろう(もっとも、来季はヨーロッパでプレーしているかもしれない)。
 アデレードのセットプレーは、そのほとんどをジャミーソンが蹴っていた。だがゴールが生まれたのは、いずれも守備的MFのリードによるキックからであった。後半38分、リードの右サイドからのFKに、キャプテンのドッドがニアからヘッドで流し、ボールは微妙にコースを変えてゴールへと吸い込まれていく。これが決勝点となった。

 ワイタケレは、後半30分に登場したピメンタが、切れ味のあるドリブル突破を見せて客席を沸かせたが、決定的な場面はほとんど作れず。終わってみれば、2−1でアデレードの順当勝ちであった。次の試合は、14日の日曜日。マンUへの挑戦権を懸けて、そしてACLでのリベンジを期して、準々決勝でガンバ大阪と対戦する。

「大陸なき大陸」に期待すること

 ボール支配率では64%と36%、シュート数は19本と6本、そしてコーナーキックが19本と3本。試合後のスタッツからも、アデレードとワイタケレの力の差は歴然であった。この数字の開きは、そのままオーストラリアとニュージーランドの力の差として見ることも可能だろう。オーストラリアがOFCに所属していた時代、唯一のライバルだったのがニュージーランド。ただし、切磋琢磨(せっさたくま)するパートナーとしては、あまりにも物足りない存在だった。より高いコンペティションを求めて、オーストラリアがアジアへ逃げてしまったのも、何となく理解できる。

 かくして「大陸なき大陸」に取り残されたニュージーランドは、アマチュアのまま世界のひのき舞台に上がれるという、実に奇妙な特権を得ることとなった。オセアニア代表(すなわち、ニュージーランドのアマチュアクラブ)の扱いについては、集客力と競技レベルの面で、今も大会主催者を悩ませている。それでも、クラブW杯2度目の出場となるワイタケレは、着実にステップアップを図ることで、何とかオセアニアの存在感を示そうとしている。そしてその思いは、アデレードに敗れた今も、決して変わることはない。

 試合後の会見で「このチームが準々決勝に進むには、どれだけ時間がかかるか?」という質問に対して、ミリシッチ監督は「あと1年待ってほしい」と答えていた。「この1年の成果を見ると、あと12カ月の時間と新しい選手があれば、達成できると思う」というのが指揮官の考えである。アマチュアクラブが1年間でできることは、もちろん限られている。それでも、アジア2位のプロクラブに先制ゴールを挙げるだけの力を、ワイタケレは世界に示すことができた。ほんのわずかな前進かもしれないが、しかし、決して看過すべきではない事実である。オセアニアのクラブに「少しでも世界に近づきたい」という意欲があり、それに対して主催者側が機会を与え続けたならば、いずれ「大陸なき大陸」にも、新たなフットボールの芽吹きが期待できるのではないか。

 かつてのトヨタカップは「クラブの世界一を決める」ための大会であり、かつまた「スター選手の共演」を拝める大会でもあった。その基本路線は、今も変わってはいない。だが、大会のフォーマットが6大陸に拡大されたことで、私たちはさらに多くの要素を、この大会から見いだすことができるようになった。それはすなわち、大陸間における異文化の激突であり、さらには各大陸の普及と成長の過程である。
 次回、オセアニアからどんなチームが出場するのだろう。そしてどんな戦いを見せてくれるのだろうか。それが私にとって、この大会の大切な楽しみのひとつである。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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