ワイタケレのわずかな前進=開幕戦 アデレード 2−1 ワイタケレ

宇都宮徹壱

「とりあえず最後」となる今年のクラブW杯

クラブW杯の開幕戦でボールをキープするアデレードの主将ドッド(右) 【Getty Images】

 街中がクリスマスのイルミネーションで彩られる12月は、FIFAクラブワールドカップ(W杯)開幕の季節でもある。第5回大会(日本での開催は4回目)を迎える今年も、11日から21日まで、東京、愛知、神奈川の3会場で合計8試合が行われる。毎年、この大会が近づくと「クラブのぉ〜」というフレーズがテレビから聞こえてくるのだが、今年はいつもと比べて露出が少なく感じるのは気のせいだろうか。日本のサッカーファンの関心も、まずはJリーグの入れ替え戦に向けられており、この日の開幕戦も「ああ、そういえば」というのが実感レベルであろう。それでも、今大会は今まで以上に盛り上がってほしい。それが、今の私の偽らざる気持ちである。

 ご存じのとおり、今大会をもってクラブW杯はいったん日本から離れることが、すでに決まっている。2009年と10年の2大会は、UAE(アラブ首長国連邦)が開催国となる。つまり、前身のトヨタカップから27年間、1981年(昭和56年)から連綿とわが国で開催され続けてきた「クラブの世界一を決める大会」が、ついに来年は身近で見られなくなってしまうのである。もっとも、3年後の2011年には、大会は再び日本に戻ってくるのだが……。

 それでも、天皇杯や高校サッカーと並んで長年親しまれてきた、日本サッカー界の冬の風物誌のひとつが、一時的とはいえ失われてしまうことに変わりはない。ものごとの価値というものは、往々にして失ったときに分かるものだ。今は実感がわかないだろうが、きっと来年の今ごろは、何とも言えぬ喪失感を覚える人は少なくないのではないか。
 そんなわけで「とりあえず最後」となる今年のクラブW杯。「マンU(マンチェスター・ユナイテッド)が」とか「ガンバ大阪が」とか、何かと特定クラブを主語にして語られることの多い大会ではあるが、むしろ大会そのものを楽しみながら、11日間にわたる熱戦の模様をリポートしていこうと思う。最後までお付き合いいただければ幸いである。

勝つためにやってきたワイタケレ

 試合前、突如としてスタジアムの照明が落とされ、派手なオープニングセレモニーで始まった。しばし固唾(かたず)をのんで見守っていたが、再び会場が明るくなるつれて、バックスタンドもゴール裏もずい分と空席が目立つことに気付かされる。観客数は1万9777人。カードの渋さを考えれば、これでもかなり入った方だと言えよう。この日の開幕戦に登場するのは、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)準優勝、オーストラリアのアデレード・ユナイテッド。そして、オセアニア王者、ニュージーランドのワイタケレ・ユナイテッドである。

 オーストラリアサッカー協会が、OFC(オセアニアサッカー連盟)からAFC(アジアサッカー連盟)へと転籍したのは、今から2年前。以後、オセアニアは「大陸なき大陸」となり、アジアはさらに移動が困難な地域になってしまったわけだが、くしくも今大会で、かつてのオセアニアのライバルは、それぞれの大陸の代表として雌雄を決することとなった。オーストラリアとニュージーランドといえば、共に英国連邦に属し、タスマン海を挟んで隣り合っているだけに、多少の敵がい心はありそうな気がする。これがワラビーズ(ラグビーオーストラリア代表の愛称)とオールブラックス(同ニュージーランド代表の愛称)によるラグビーの試合だったら、ハイレベルな戦いが期待できただろうが、果たしてサッカーとなると、両者の間にどれだけの差異が見られるのだろうか。

 ざっとスターティングメンバーを見てみると、アデレードは攻撃の要となる2人のブラジル人、カッシオとジエゴがいない。これにセンターバックのオグネノブスキ(名前からしてマケドニア系だろう)を加えた3人が、けがのためベンチ入りせず。FWで10番を付けたブラジル人のクリスティアーノを除く10人全員が「国内組」という陣容だ。
 一方のワイタケレは「国内組」が5人で、残りはイングランド、ウェールズ、クロアチア、そしてフィジーと実に多彩。さらにベンチには、ブラジル人のピメンタとソロモン諸島代表のトトリが控える。監督のミリシッチによれば、前回大会での戦力不足を踏まえて、今回は「ニュージーランド以外から新戦力を加えた」という。それが、横浜FCでもプレー経験のあるピメンタであり、フィジー代表で得点能力の高いクリシュナである。

 所属選手全員がアマチュアで、週4回の夜間練習しかできない、さながら日本の地域リーグ所属のクラブを想起させるワイタケレ。そんな彼らにとって、国外から選手をスカウトしてくるのには、それなりの苦労と努力があったはずである。しかも彼らは、来日する直前に中国・寧波でキャンプを張り、入念なコンディション調整も行っている。そう、ワイタケレは間違いなく、勝つために東京にやって来たのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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