変わることができなかったソフトバンク=2008年12球団を振り返る

田尻耕太郎

「地力はある」という考えが落とし穴に

 ことし、福岡ソフトバンクは最下位に沈んだ。1999年に前身の福岡ダイエーが初優勝して以来3度のリーグ優勝を果たし、ずっとAクラスを守り続けてきたチームの低迷。その原因は一体何だったのだろうか。

 よく耳にする「最大の敗因」は故障者の続出である。たしかに投手陣の精神的支柱である斉藤和巳が右肩の手術により丸1年を棒に振ったし、絶対的守護神の馬原孝浩も右肩痛を発症した。さらに主軸の多村仁は4月の試合中に右足を骨折し、元気者の川崎宗則は北京五輪期間中に左足の疲労骨折が判明した。それ以外の主力選手にも故障が次々と起こり、今季ベストメンバーで戦えたことは1度もなかった。それでも地力はあったはずだ。だからこそ5月から6月にかけて行われた交流戦では優勝を勝ち取ることができた。

 地力はある。しかし、そこに落とし穴があったのではないだろうか。
 開幕前、スポーツ紙やテレビ番組では必ず評論家たちによる順位予想が行われる。ことしのそれは、福岡ソフトバンクの優勝を予想するものが8割を超えていた。野球を見るプロたちも福岡ソフトバンクの底力を確信していたのだ。もちろん、それは現場を預かる王貞治前監督も同じだった。「普段通りの力を出せば優勝できるんだ」という言葉を何度も口にしていた。

 だが、福岡ソフトバンクは2006年を境に徐々に力を落としていた。03年の日本一以降も04年と05年はリーグ優勝こそ逃したがレギュラーシーズンは1位で通過した。しかし、06年からは2年連続3位。そして、どちらも3位だが、クライマックス・シリーズでは06年は第2ステージまで進出したのに対し、07年は第1ステージで敗退。右肩下がりは明らかだった。しかし、08年シーズンに臨んだソフトバンクは首脳陣の入れ替えも選手の補強もほとんどしなかった。「地力はあるのだから」と信じたが、結果を見る限りそれは誤りだったといえる。

変えられなかった「横綱野球」

 野球のスタイルもそうだった。福岡ソフトバンクの野球は「横綱野球」。オーダーをちょこちょこと変えることはない。しっかりと固定したメンバーで腰を据えて戦う。さらに小技よりも力勝負を好む。それはキャンプの練習を見れば明らかだ。特打や特守など個人能力を上げるための練習時間は、チームプレーのそれに比べて大きく上回っていた。特に、バントや進塁打などは「試合のための練習」と呼べるか疑問に思うことさえもあった。かつてはそれでも勝てた。たとえば、03年はチーム打率2割9分7厘という、とんでもない数字をたたき出した。だから日本一になることができた。だが、力が落ちたここ数年もその考え方は変わらなかった。だから、最下位にまで転落したのだ。

 そして、どっしりと構えてしまったからこそパニックには弱かった。故障者続出に対応しきれなかったのもそこに原因がある。
 また、パニックといえば、9月以降の戦いがそうだった。王前監督が「本当の勝負どころ」と言って臨んだ戦いで6勝21敗と大きく負け越した。その中のある試合で象徴的な出来事があった。試合中、ある投手が選手食堂にやってきた。ドリンクを手にした彼は「おれ、今日は準備しなくていいって言われた」と話していた。しかし、それから30分も経たないうちにその投手はマウンドに上がっていた。突然の登板指令。ベンチ内のコミュニケーションが成り立っていなかった。

秋山新監督の下で生まれ変わるホークス

 屈辱のシーズンの終了とともに、福岡ソフトバンクは新しく生まれ変わろうとしている。秋山幸二新監督が就任。コーチ陣の入れ替えもあった。

 11月20日まで行われた秋季キャンプ。秋山監督は現有戦力の底上げにこだわった。あえて主力のベテラン選手を帯同させずに、とにかく限界まで毎日体を追い詰める練習をさせた。キャンプに参加した選手たちは誰もが「プロに入ってから一番きつい」と顔をゆがめた。秋山監督の掲げる「鍛える」そして「成長する」キャンプを終えたナインの表情はどこか自信にあふれているように見える。

「選手たちはよく頑張った。でも、12月と1月の2カ月間を無駄にしたら何にもならない。2月1日、さらに成長した姿を見せてほしいね」(秋山監督)
 若き指揮官は柔らかい表情で穏やかそうに見えるが、じつは冷徹な一面も持つ。最下位からの逆襲を誓う若鷹たちに安らぎのオフは与えられていない。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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