G大阪、世界でも貫く“超攻撃”=FIFAクラブW杯2008

下薗昌記
 日本勢が2年連続でアジア王者として参加するFIFAクラブワールドカップ(W杯)。昨年、宿敵でもある浦和レッズが「世界3位」に食い込んだひのき舞台に、ガンバ大阪が挑む。攻撃サッカーを志向するクラブの矜持(きょうじ)を示す絶好の機会であると同時に、指揮官にとってもアトランタ五輪以来12年ぶりとなる世界との邂逅(かいこう)の場となる。

攻撃力が売りのG大阪が得点力不足に

G大阪―アデレード 前半、攻め込むG大阪・遠藤=アデレード 【共同】

「浦和とは違う形でアジアを制したい」。指揮官の狙いどおりの攻撃力を発揮し、南半球の地アデレードで優勝トロフィーを掲げたG大阪。彼らがたどったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の足どりは、実に派手なものだった。12戦を9勝3分けと昨年の浦和同様、無敗で乗り切ったばかりか、総得点27点、1試合平均2.25点という攻撃力を見せた。さらに、ACLでは初となるアウエー全勝という偉業まで成し遂げる圧巻の戦いぶりである。

「G大阪の力を証明できた」(遠藤保仁)。「本当にホッとしている」(山口智)。3−0で快勝した初戦に続き、敵地での第2戦でも2−0と付け入るすきを与えずにアデレード(オーストラリア)を下した。直後のミックスゾーン(取材エリア)は、喜びと安堵(あんど)感に満ちていた。そんな選手たちの中で印象的なコメントを残したのがチーム屈指の頭脳派、橋本英郎だった。「素直に喜べない……。Jリーグで結果を残せていないし、あの順位だから」

 内憂外患ならぬ、「内憂外喜」を抱えてきたのが今季のG大阪だ。
 ACLで残した数字だけを見れば、近年J屈指の攻撃力を持つチームにふさわしい成績に見えるが、誤解を恐れずに言うならば今季のG大阪の攻めは迫力を欠く。いや、正確にはチームの売りである前線に怖さがないというべきだろう。
 橋本が指摘するJリーグでの順位もさることながら、それ以上に深刻なのが得点数だ。
 第33節終了時での総得点44は、リーグ8番目。この数字は、リーグ初戴冠を飾った2005年、2007年に総得点数のトップにその名を刻み込んできた大阪の雄にとって、受け入れざるものである。

「今季のG大阪はポゼッションしているだけ」

「はっきり言ってACLで優勝できると思っていなかった。自信はなかった」。いつもは強気な西野朗監督の言葉は決して謙遜(けんそん)ではない。かつてアラウージョやマグノ・アウベスら王国ブラジルでも高いレベルのストライカーを手駒に持ち、多くの監督が悩む決定力不足とは無縁だった指揮官は、今季常に抱えるジレンマをこう口にする。「毎年、攻撃を期待されているので、そういう意味では自分としても不満がある。ガンバは得点していくことが本来のスタイル。今季はポゼッションしているだけというふうにも感じるし、最終的にゴールがない」

 アデレードから帰国後、チームは数字の上で残っていたJリーグでの逆転優勝と来年のACL出場権を懸けた天皇杯を並行して戦う一方で、西野監督はクラブW杯に向けた希望を探し出す作業に取り組んでいた。
 前線の再構築――。確かにACLの準決勝以降は、ルーカスをワントップに配置し、G大阪が誇る「中盤力」を得点に直結させる4−2−3−1を機能させてきたが、あくまでも西野監督が志向するのは、ポゼッションを強力な2トップが完結させるスタイルだ。橋本も同調する。「うちは、やっぱりFWがしっかりと得点することで方向性を打ち出して行くチーム。FWが2点ぐらい決めて、僕ら中盤の選手やDFがダメ押しするぐらいが理想だと思う」

 帰国後最初の試合となる11月16日の天皇杯4回戦以降、大敗したJリーグの川崎フロンターレ戦を含めて、公式戦の3試合で西野監督はルーカスと播戸竜二を2トップに起用した4−4−2で挑むが、3戦で2トップが挙げた得点はゼロ。うち2試合は遠藤と並ぶ中盤の軸である二川孝広を半月板損傷で欠いていたとはいえ、「チャンスは(過去のシーズンと)同じぐらいあるが、決定力が足りない」(西野監督)。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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