日本が発信する国際映像=世界陸上の舞台裏vol.1

スポーツナビ

世界から高評価を受けたマラソン中継

この部屋で世界中に配信される国際映像が作られている 【スポーツナビ】

 大会初日に行われた男子マラソン中継で、TBSは海外の放送局から高評価を受けた。マラソンは、日本ではメダルが期待できる花形種目だが、実は海外ではそれほどメジャーではない。そのため、過去の大会では、日本のマラソンや駅伝中継でよく見る中継車を出さずに、バイクのみで撮影が行われていた。撮影された映像の電波は、上空を飛ぶヘリコプターを経由して、競技場の中継車まで送られる。
 しかし、ヘリコプターの受信だけでは、映像が乱れることがある。しかも、ヘリコプターが天候の理由等で飛べないと受信ができなくなる。この問題を解消するため、TBSはバイク3台(国際映像用とは別に日本人用にさらに1台)にヘリコプター2台に加え、中継車を2台出して映像を作り、さらにコース周辺のビルなどにもアンテナを設置して地上でも電波の送信をできるようにした。これにより、映像の乱れがない国際映像を作ることが可能になった。

 すでに述べたように暑さによる機器の故障で走行距離が途切れるハプニングもあったが、マラソン中継後には、海外の各局から「日本のマラソン中継はすごい」という声が挙がったそうだ。世界屈指のマラソン中継ノウハウを持つ日本の面目躍如ともいうべき仕事。2年間にわたる準備期間中に細部の、そのまた細部に至るまで研究したという佐藤氏は、「日本式のマラソン中継をやれば、海外からびっくりされる自信はあった」と、笑顔で話す。

世界中から寄せられる要望をいかに満たすか

スタジオの写真 【スポーツナビ】

 一方で、徐々に問題も出てきている。中でも一番の課題は、海外放送局とのバランスである。世界陸上では、100mなどのトラック競技と、ハンマー投げや棒高跳びなどのフィールド競技が同時に行われる。
 トラック競技はスケジュールがはっきりと区切られており、どこに注目選手が出てくるかが分かりやすいが、フィールド競技は競技時間が長く、進行状況によって狙った時間に選手が出てくるとは限らない。必然的にスケジュールが立てやすいトラック競技中心で映像を構成することになるのだが、それによってフィールド競技では、有力選手しか画面に登場しないという事態も出てくる。
 ここが問題になる。例えばフィンランドでは投てき競技の人気が高いように、国によってどの競技が人気かはまちまち。また、世界的に有名でない選手でも、国に帰れば注目選手である。その選手の映像がないとなれば、その国の放送局にとっては大問題だ。

 大会初日の25日の男子砲丸投げ決勝で事件は起きた。アンドレイ・ミフネビッチ(ベラルーシ)が1投目で投げた銅メダルの投てきが、トラック競技と重なったために、国際映像で出せなかったのだ。翌日に各放送局が集まった会議では、「昨日の銅メダルの投てきがないのはなぜか」という苦情が出たという。

「そういったことがあったので、26日の女子棒高跳びの予選は予選通過した12人はそれぞれ2回ずつ(の跳躍映像)出しました。例えば、エレーナ・イシンバエワ(ロシア)の動向が欲しいだろうと、彼女が準備をしている映像を入れて、有力ではない選手の跳躍の映像を切るのは、非常に危険なんです」と、国際映像担当プロデューサーの山上昌広氏は説明する。

 今大会に来ている海外放送局は70局。多大に寄せられる要望をいかに満たすか。もちろん全部の要望を100パーセント満たすことは不可能だが、いかにそれに近づけるか。そのバランス感覚こそが最も重要であり、最も難しいことでもある。世界的な需要や人気も知っていなければならず、世界の陸上競技に精通していなければならない。
 世界各放送局とわたり合えるだけの陸上知識と、絶妙なバランス感覚が、HBには求められるのだ。

 日本の選手たちは、国を代表して戦っている。TBSもまた、日本のテレビ局を代表して、世界と戦っているのである。

<了>

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