シャラポワ、タイトル逃すも一時代築くか=全豪オープン

武田薫

明暗を分けた立ち上がり

決勝でセリーナに敗れたシャラポワだが、今後も中心選手であることは間違いなさそうだ 【Getty Images/AFLO】

 メルボルンは、昨夜から大嵐。センターコートの屋根はがっちり閉ざされ、その空間は意外な静けさに包まれた。プレー中のうなり声で知られたセリーナ・ウィリアムズ(米国)、マリア・シャラポワ(ロシア)の対決とは思えない静かな戦況が、今年最初のグランドスラム決勝の内実を物語った。

 シャラポワは、準決勝のキム・クライシュテルス(ベルギー)戦で素晴らしい試合を見せた。激しいブレーク合戦だった第1セット、強烈なバックハンドをベースライン深くにコントロールして攻め続けた姿勢に、一段の飛躍を印象付け、一方のセリーナは、17才のニコラ・バイディソバ(チェコ)に振り回されながら辛くも決勝に勝ち残った。大会前にビキニ姿が新聞に載ったが、胴回りの太さ、動きの鈍さ……戦前の予想はシャラポワ有利。ふたを開けると、そうはならなかった。

 2人とも相手を振り回す技巧派のプレーヤーではない。一発の脅威を秘めたショット・メーカーで、初めからセリーナがバタバタと走り回る展開にはならなかった。短いラリーの押し相撲になれば、問題はサービスの出来、不出来になる。第1ゲーム、セリーナがサービスエースを決めてキープしたのに対し、シャラポワはファーストサーブが入らず、40−15から2本のダブルフォールトがらみでブレークを許すという対照的な立ち上がりになった。

優勝したセリーナは“完全復活”なのか?

戦列復帰を果たし、2年ぶりに女王の座に返り咲いたセリーナ。今後の動向やいかに 【Getty Images/AFLO】

最初の2ゲームがシャラポワに与えた影響は大きかっただろう。
 シャラポワは、昨夏に素晴らしい飛躍を見せて全米オープンに優勝している。セリーナは故障や身内の不幸が重なり、昨シーズンは4大会にしか出場していない。2人の対戦は5度目だが、最後は2年前のこの大会の準決勝で、シャラポワは3本のマッチポイントを生かせず逆転負けした(2−6、7−5、8−6)。はた目からはシャラポワ有利に見えても、当人は2年前の敗戦を心の底に抱え、疑心暗鬼で探りを入れていたはずだ。逆に、開き直ったセリーナには、これが計10度目のグランドスラム決勝という経験もあった。立ち上がりは大事だった。

「なんとかラリーに持ち込もうとしたけれども、サーブとリターンの勝負になってしまって……。もう少しサーブが良ければとも思ったんだけど」
 第1セットの、シャラポワのファーストサーブの確率が50%という低さ、これがすべてと言っていい。試合が進むにつれてサーブへの圧力が高くなれば、セリーナがそこを見逃すはずがなく、試合は一方的展開になった。

 セリーナは一昨年のこの大会に優勝し、その後、故障からの復帰に手間取って昨年の4月にはランキングを140位まで落とし、今大会も81位でノーシードだった。ノーシードの優勝は、全豪では1978年のクリス・オニール(オーストラリア)以来2度目だが、男子のマラト・サフィン(ロシア)同様に、ランキングは大した問題ではない。この故障休養中に映画出演するなど、コート外で活発な話題を提供してきた。「テニスだけが人生ではない」というウィリアムズ家の家訓は正論として、テニスファンとしてはこの優勝が完全復帰とはにわかに信じ難いものがある。やはり、今年も女子ツアーはシャラポワで回るのではないか。

<了>
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著者プロフィール

宮城県仙台市出身。男性。巨人系スポーツ紙の運動部、整理部を経て、1985年からフリーの立場で野球、マラソン、テニスを中心に活動。新聞メディアや競技団体を批判する辛口ライターとして知られながら、この頃は甘くなったとの声も。テニスは85年のフレンチオープンから4大大会を取材。いっさいのスポーツに手を出さなかったが、最近、ゴルフを開始。フライフィッシングはプロ級を自認する

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