クルム伊達が日本テニス界に与えた衝撃
復帰戦で単複ともに決勝進出を果たしたクルム伊達 【写真は共同】
「本当にやれるのか?」「どの程度、本気なのか?」「復帰の真意は何なのか?」というファンや関係者たちのさまざまな憶測や期待、不安が交錯する中、カンガルーカップの初日(4月27日)、クルム伊達公子は、長良川テニスプラザ(岐阜)のセンターコートに姿を現した。
初日から、ちょうど一週間後の5月4日の決勝戦。伊達は、まだセンターコートに立っていた。大会へのエントリーがあまりに急だったためと、伊達のコーチにして日本強化本部部長である小浦武志氏の進言もあり、シングルスは予選から出場した本大会。そこで伊達は3勝して本選に駒を進めると、そのまま本選でも4つの勝ち星を連ね、本人ですら「出来すぎ」と言う、復帰第一戦でのシングルス決勝進出を達成したのだ。さらには、高校生の奈良くるみ(大阪・大産大付高)と組んでのダブルスでは、優勝という結果を残している。
この大会期間中の伊達の活躍については、既に多くの人々がテレビや新聞、ネット等でご存知のことと思うので、今更ここで詳しく触れようとは思わない。また、私自身「スポーツナビ+(ブログ)」等でもレポート的なものを書いているので、興味のある方にはそちらを見て頂くとして、ここでは“クルム伊達公子が残したもの”に焦点を当て、今大会を振り返ってみたいと思う。
伊達が掲げた「日本人選手への刺激」の効果の程は?
3回戦で対戦した中村藍子をはじめ、伊達に敗れた日本人選手たちは、いったい何を思ったのか 【内田暁】
選手としての目標は、ことし11月に行われる全日本選手権の出場だった。全日本選手権の出場資格には、地域選手権の優勝者枠などがあるが、伊達が目指したのは、JTAランキング上位29名という枠だ。もちろん、あの伊達公子が本気で出たいと言えば、大会側はワイルドカードを用意するだろう。だが伊達は、ポイントを貯め、自身の力で出場枠を勝ち取りたいと願った。今回、岐阜・福岡・久留米というITFサーキット(WTAツアーより一段階下のランクの大会)3大会連続出場という強行スケジュールに踏み切った意図も、高ポイントが獲得できる大会を戦うことで、ランキングを効率よく上げることにある。さらには、WTAランキングを得るには最低3大会の出場が必要だというのも、今回の決断の一因だろう。
ちなみに、今回のカンガルーカップ準優勝という成績で、伊達はJTAランキング20位代、WTAでは500位代中盤のランキングに相当するポイントを獲得している。
そして我々が注目すべきは、伊達が復帰時に掲げたもう一つの大きな目標、「日本の選手たちに刺激を与え、テニス界を活性化したい」にこそある。
伊達は今回のカンガルーカップで、延べ6名の日本人選手と対戦し、その全てに勝利した。特に3回戦で対戦した中村藍子は、世界ランキング80位(試合当時)、昨年の夏には47位にまで上がり、過去3年間、全てのグランドスラムに出場している、いわばトップクラスのツアープロだ。その中村にとって今回の敗戦は、刺激どころか、激痛に近い痛みを伴ったことだろう。
中村をはじめ、今大会、伊達に敗れた日本人選手たち、さらには伊達とダブルスを組んだ奈良らは、一連の経験から何を得、何を思うのか? 彼女らのコメントや動向から、伊達が残したものを検証してみよう。