クルム伊達が日本テニス界に与えた衝撃

内田暁

復帰戦で単複ともに決勝進出を果たしたクルム伊達 【写真は共同】

 12年前に、フェドカップでシュテフィ・グラフ(当時世界1位)を破った3時間24分の“有明の奇跡”、そしてウィンブルドン準決勝でのグラフとの二日越しの大熱戦など、テニスファンのみならず、日本中のスポーツファンを熱狂させた伊達公子が、衝撃的な「復帰宣言」をしてから、およそ3週間後――。
「本当にやれるのか?」「どの程度、本気なのか?」「復帰の真意は何なのか?」というファンや関係者たちのさまざまな憶測や期待、不安が交錯する中、カンガルーカップの初日(4月27日)、クルム伊達公子は、長良川テニスプラザ(岐阜)のセンターコートに姿を現した。

 初日から、ちょうど一週間後の5月4日の決勝戦。伊達は、まだセンターコートに立っていた。大会へのエントリーがあまりに急だったためと、伊達のコーチにして日本強化本部部長である小浦武志氏の進言もあり、シングルスは予選から出場した本大会。そこで伊達は3勝して本選に駒を進めると、そのまま本選でも4つの勝ち星を連ね、本人ですら「出来すぎ」と言う、復帰第一戦でのシングルス決勝進出を達成したのだ。さらには、高校生の奈良くるみ(大阪・大産大付高)と組んでのダブルスでは、優勝という結果を残している。

 この大会期間中の伊達の活躍については、既に多くの人々がテレビや新聞、ネット等でご存知のことと思うので、今更ここで詳しく触れようとは思わない。また、私自身「スポーツナビ+(ブログ)」等でもレポート的なものを書いているので、興味のある方にはそちらを見て頂くとして、ここでは“クルム伊達公子が残したもの”に焦点を当て、今大会を振り返ってみたいと思う。

伊達が掲げた「日本人選手への刺激」の効果の程は?

3回戦で対戦した中村藍子をはじめ、伊達に敗れた日本人選手たちは、いったい何を思ったのか 【内田暁】

 まず、ことし4月7日に、伊達が「クルム伊達公子として、公式戦のテニスコートに立ちます」と復帰を宣言をした際、彼女は選手として、そして、「テニス界への恩返しを望む者」として、それぞれ明確な目標を掲げた。
 
 選手としての目標は、ことし11月に行われる全日本選手権の出場だった。全日本選手権の出場資格には、地域選手権の優勝者枠などがあるが、伊達が目指したのは、JTAランキング上位29名という枠だ。もちろん、あの伊達公子が本気で出たいと言えば、大会側はワイルドカードを用意するだろう。だが伊達は、ポイントを貯め、自身の力で出場枠を勝ち取りたいと願った。今回、岐阜・福岡・久留米というITFサーキット(WTAツアーより一段階下のランクの大会)3大会連続出場という強行スケジュールに踏み切った意図も、高ポイントが獲得できる大会を戦うことで、ランキングを効率よく上げることにある。さらには、WTAランキングを得るには最低3大会の出場が必要だというのも、今回の決断の一因だろう。
 ちなみに、今回のカンガルーカップ準優勝という成績で、伊達はJTAランキング20位代、WTAでは500位代中盤のランキングに相当するポイントを獲得している。

 そして我々が注目すべきは、伊達が復帰時に掲げたもう一つの大きな目標、「日本の選手たちに刺激を与え、テニス界を活性化したい」にこそある。

 伊達は今回のカンガルーカップで、延べ6名の日本人選手と対戦し、その全てに勝利した。特に3回戦で対戦した中村藍子は、世界ランキング80位(試合当時)、昨年の夏には47位にまで上がり、過去3年間、全てのグランドスラムに出場している、いわばトップクラスのツアープロだ。その中村にとって今回の敗戦は、刺激どころか、激痛に近い痛みを伴ったことだろう。

 中村をはじめ、今大会、伊達に敗れた日本人選手たち、さらには伊達とダブルスを組んだ奈良らは、一連の経験から何を得、何を思うのか? 彼女らのコメントや動向から、伊達が残したものを検証してみよう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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