G大阪、揺るがないスタイルでアジア制覇に王手=ACL決勝第1戦

下薗昌記

「レッズとは違う形でアジアを制したい」

G大阪—アデレード 後半、3点目のゴールを決めて喜ぶG大阪・安田理(右)=万博【共同】 【共同】

「(浦和)レッズとは違う形でアジアを制したい」(西野朗監督)。予選リーグを通じてアウエー全勝という破天荒な勝ち上がりでアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝まで上り詰めたガンバ大阪にとって、今大会随一の守備力を誇るもう一つの「レッズ」は乗り越えるべき最後のハードル。G大阪の“聖地”万博競技場が初めて経験するアジアの大舞台で、G大阪は順風満帆とは言い難かった今季、徐々に積み上げてきた新たなスタイルをアデレード・ユナイテッド(オーストラリア/以下アデレード)の大男相手に結実させた。

 2度目のアジア航路は波乱に満ちたものだった。3月の予選リーグ初戦で、タイの新興勢力相手にロスタイムまでリードを許す苦しい展開にサポーターからの怒号が飛び交った万博競技場が、約8カ月後にファイナルの大舞台になると信じたサポーターは恐らく数少なかっただろう。ほかならぬ西野監督でさえ大会前は「予選突破が最低目標」、決勝トーナメント進出を果たしてからも「国内で力をつけないと厳しい」と、長らく「優勝」の2文字は封印し続けてきた。
「時に守り切り、アウエーでは手堅く勝ち点1を取りに行くことも必要」と現実主義への転換も視野に入れるほど、ACLでの躍進に執念を見せていた指揮官だったが、チョンブリFC(タイ)相手にドロー発進したことで、G大阪には似つかわしくない“セコイ”勝ち点計算は放棄され、結果としてアウエーでも勝ち点3を目指したことが本来の攻撃性の発揮につながってきた。

「守り切って0−0というプランを想定して実際にできるクラブとできないクラブがある。ガンバはそれができない」
 思えば2005年のリーグ初戴冠、そして昨年のナビスコカップ初優勝と、大阪の雄は常に自らのスタイルを貫き通した上で結果をつかみ取ってきた。
 美しく敗れる――。革命児クライフを擁するも西ドイツ(当時)に敗れた1974年ワールドカップのオランダや、天才ジーコを中心に「史上最強」の呼び声がありながらイタリアの軍門に下った82年のブラジルのように、敗れてなお賞賛を得るチームがサッカーには存在する。「西野イズム」をピッチで体現する遠藤保仁も「やっている自分たちが面白くないと、見ている人が面白いはずがない」と言う。
 現実主義が幅を利かす現代サッカーに、愚直なまでに攻撃の姿勢を貫き通すG大阪もしばしば涙をのんできた。だが、このチームには古き良き時代の日本人が有した散り際の良さが残っている。「決勝でも楽しくやるというガンバのスタイルを崩す必要はない」と繰り返す背番号7は、アジア制覇を懸けた大舞台でも平然と言い切った。
「それで負けたら自分たちの力が足りなかっただけ」

初戦から勝負に出たG大阪と、引き分けでOKのアデレード

 決勝までの10試合で計22得点のG大阪に対して、「レッズ」の愛称を持つアデレードは完封6試合で、わずか4失点しか許していない堅守を最大の武器とする。「昨年の浦和と同じような戦い方を打ち出して勝ち上がってきた」と西野監督が警戒するように、豪州の赤いチームは決勝トーナメント以降、アウエーを手堅く乗り切り、ホームで勝利する勝ち上がりを見せてきた。
 一般的にカップ戦の決勝トーナメントでは地の利とサポーターの声援を受けられるホームゲームを2戦目に残す方が有利となる。それだけに「決勝のアウエー戦は今までと違う重圧がある。ホームでアドバンテージを取りたい」と初戦必勝を打ち出していた西野監督は、第2戦での奥の手がなくなることを承知で、浦和戦の後半に相手を翻弄(ほんろう)し、逆転勝利を呼び込むきっかけとなった4−2−3−1システムで勝負に出た。その狙いはこうだ。
「強引に点を取りに行く時間をどこで作るか。どこでそのメッセージを与えるか」(西野監督)

 あえて、切り札ともいえる布陣でピッチに出た青いホームチームは大一番で、今季鳴りを潜めがちだった華麗なパスサッカーを展開する。開始直後から安田理大が二川孝広との連係で左サイドを崩すと、右翼を担うスピードスターの佐々木勇人は、パス主体のG大阪の攻めにドリブルというエッセンスを付け加え攻撃を活性化した。
「ドリブルで中と外に仕掛けろと言われていた」(佐々木)

 両サイドで数的優位を保ちながら、遠藤を中継点にダイナミックなサイドチェンジで相手ゴールに迫るG大阪が主導権を握るが、「アウエーでの試合を0−0のドローで終えるのは良い」というビドマー監督の狙いもまた、アデレードサイドでは体現されていた。190センチ台の大男がズラリと並ぶ最終ラインは、サイドを崩されても最後の一線は守り切る。攻撃に関しても無理をして前がかりになることはなく、むしろのらりくらりとした前半30分ぐらいまでの展開は、ある意味でアデレードペースといえた。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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