野口みずき、五輪欠場の理由を今明かす=女子マラソン

折山淑美

涙ながらに、北京五輪欠場の理由を語った野口みずき 【折山淑美】

 質問をふられた野口みずきは、マイクを取ると「最初に話しておかなくてはいけないことがあるので」と言って、自ら北京五輪欠場について話し出した。

 10月11日の新潟県佐渡市、指導する藤田信之監督が主宰する「藤田ランニングアカデミー」の初日のトークショーでのことだ。野口は藤田監督、1996年アトランタ五輪マラソン出場の真木和とともに壇上に上がっていた。

「本来なら北京五輪へ出場するはずでしたが、故障で出場することができず申し訳ないと思っています。私が五輪へ出られなくて不満に思う人もいると思うし、監督と広瀬さん(永和・コーチ)を批判する声も出ていましたが、二人は本当に最後まで私を守ってくれました。故障の原因はやっぱり自分だったので……。余裕を持ってやっていけばよかった時に、五輪を意識し過ぎて練習をやり過ぎてしまったんです。ガンガン追い込んでしまったことで左足に疲労が集中して、それが結果的に故障へつながったんだと思います」
 野口は話をしている途中、感極まって涙を浮かべて言葉を詰まらせた。

「檻に入れないと休めへんのか!」

 スイス・サンモリッツで合宿中だった野口は、左の太ももの裏の筋の付け根辺りを痛めたため、急きょ帰国した。治療をしたが痛みがひどくなったため、大会直前になって欠場を決断。北京五輪の女子マラソンは北海道で見ていたという。

「欠場を決めた時は『悔しい!』と言うのが一番大きかったですね。監督や広瀬さんも悔しかったと思うけど、二人の判断は正しかったと、今になって痛感しています。ストップをかけてもらったことは、選手生命という面から見てもよかったと思います」

 もし野口が出場を強行していたらどうなったか。藤田監督は、「広瀬と、最初のカーブでもう遅れていたな、と話していたんです」と言う。

「故障したすぐ後は1週間ほど休んだけど、しばらく走らないでいると走りたくなってしまって。まだ痛いのに走ってしまって、また悪くなるということを繰り返していたんです」

 藤田監督は、こう話す野口の練習日誌を見て隠れて走っていたことを知り、9月半ばからジョギング禁止を命令。水泳やウォーキングという、脚を比較的使わない練習をさせたという。その結果、佐渡へ入る前日にはトレーナーも「前より良くなっている。ジョギングからやれば、治りが早くなるのでは」と見立ててくれた。
 野口は「監督に、『檻(おり)に入れないと休めへんのか!』と言われたけど、自分の性格上、檻の中にいるのは無理でした」と苦笑する。

野口、ロンドン五輪挑戦を正式表明

トークショーの翌日はランニング教室を行い、子供たちに指導 【折山淑美】

 翌12日、野口は、佐渡市営競技場に集まった小学5年生から中学3年生までの子供たちのセレクションの先導役や、ランニング教室では模範の動作を見せるなど明るい表情で走り回っていた。さらに、「もし野口がロンドンを目指すといえば、全面的にサポートする」と言っていた藤田監督に対しても、記者たちの前で「ロンドン五輪を目指します。よろしくお願いします」と申し入れ、正式に挑戦を表明したのだ。

 8月の北京五輪の女子マラソンの優勝タイムは2時間26分44秒と、これまでの夏マラソン並の遅いタイムだった。だが、男子が一気にスピードマラソンになったという状況を考えれば、これからの大会では女子もスピードマラソンへ移行していく事は必至だ。

 藤田監督も、次のロンドン五輪は完全にスピードマラソンになると断言する。
「そうなったら日本のランナーが対抗するのは極めて難しいと思います。だが、野口が故障前の状態を維持できれば、彼女の走法でスピードレースにも対応できると思っている」

ロンドンに向けての課題

 ただそれには条件もある。ロンドン五輪を34歳で迎える野口も、これまでと違って練習での疲労の抜け具合も遅くなってくるはず。そのためには、マラソン練習に取り組む期間を長くしたり、全体的な練習量を落としていくなど、対策を考えていかなければいけない。

 ロンドンに向けて、まずは小さな目標からクリアしていきたいという野口は、「4年後のスピード化に対応するためにも、トラックの5000mや1万mの自己記録を伸ばしていかなければいけないと思うし、それに加えて持久力もつけていきたいと思います」と語った。

 北京五輪が終わったばかりとはいえ、ロンドン五輪出場を考えれば、代表選考レースまでにはあと3年しかない、というのも現実だ。
「2011年に韓国の大邱である世界選手権で代表権を取るのか、ほかの冬のレースで狙うのかという事も含めて、早めに考えていかなければいけない」
と藤田監督は言う。野口以外の選手も含め、ロンドンへの戦いはもう始まろうとしているのだ。

 今後の野口だが、今の状態を考えれば来年の世界選手権の選考レースには間に合わない。これから走り始め、ハーフマラソンやトラックシーズンを経て、来年秋にマラソンへ再挑戦するという青写真はできている。そうなれば復帰レースは、05年に日本記録を樹立したゲンのいいベルリンになるか。
「2時間18分台の日本新記録で復活」というニュースを、期待したい。

<了>

陸上競技マガジン11月号は、男子マラソン界に警告!

『陸上競技マガジン』11月号・表紙 【写真/陸上競技マガジン】

 好評発売中の陸上競技マガジン11月号は、「男子マラソン復活祈念」と題し、長距離界黄金期の立役者である帖佐寛章氏のインタビューを掲載。北京五輪の結果を受け、危機的状況にある日本長距離界への警告とともに、復活への指針を示しています。また、アテネ五輪マラソン代表の諏訪利成が、マラソン史上初の2時間3分台で世界記録を樹立した“皇帝”ハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)を直撃! 35歳となった現在でも世界記録を更新しているゲブレセラシエの強さの秘密とは? そのほか、北京五輪4×100リレーの銅メダリストで、9月末に現役を退いた朝原宣治のラストラン特集、駅伝ファン必見の全日本大学駅伝、高校駅伝の展望コラムなど、読みどころ満載です。
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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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