ロジャー帝国の落日、錦織の活躍……今年のテニス界を検証
錦織は、全米OPでは世界ランク4位のフェレールを撃破し、注目を集めた 【Photo:CameraSport/アフロ】
ロジャー帝国の崩壊!? 新勢力の一角を担う錦織
とはいえ、そのフェデラーに代わってトップの座を手に入れたナダルはけがが多く、また全豪や全米などのハードコートではいい成績を残せていない。全豪OP優勝者のジョコビッチにしても、シーズン前半こそ絶好調だったが、後半でやや息切れ。特にジョコビッチはユーモアがあり、物まねでファンを喜ばせるなどエンターテインメント性に富んだ選手だが、そのような彼の資質が思わぬ論争や過大な注視を招くこともあり、精神的に疲弊した感も強かった。追い上げる若い選手たちにもまだまだ不安要素があるだけに、今年一年の成績をもって「世代交代」と定義するのは、あまりに性急だろう。
ただ、このナダルやジョコビッチをはじめとする現在20歳前後の世代に、ひとつ大きな勢力のうねりがあることは間違いない。今夏、4大会連続優勝を成し遂げ、全米OPでもベスト8に入ったファン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)や、全米直前のニューヘブンで優勝したマリン・チリッチ(クロアチア)らは現在19歳。二人ともすでにランキング30位以内に入ってきており、十分にトップ選手を脅かす存在になっている。
そして、その新勢力の一角を担いつつあるのが、日本の錦織圭(ソニー)だ。今年2月、当時世界ランキング244位ながらも、予選から勝ち上がりツアー初優勝。長年待たれた「世界で戦える」日本人男子選手の登場は、あまりに突然で、あまりに衝撃的だった。
この錦織の優勝は日本のみならず世界的にもインパクトを与えたが、当時はあくまで、テニス関係者や熱狂的なファンの間でのこと。その知名度を一般レベルにまで押し広げたのが、全米OPでのベスト16進出であり、何よりも大きな見出しとなったのが、世界4位のダビド・フェレール(スペイン)の撃破だった。米国のテレビ中継でフェレール対錦織戦の解説をしたジョン・マッケンロー氏も、錦織のプレーを大絶賛し、「次代を担う若手」として太鼓判を押したほど。2月の優勝以降の錦織は、大きな大会で初戦敗退が続き、また夏場はけがで苦しむなど「プロの洗礼」を浴びたが、それらを経ての全米ベスト16は、先の優勝が決してまぐれでないことの証明であり、本人にとっても大きな意味を持つ成績となったはずだ。
女子はエナンの引退で混戦に拍車
例えば今年、ウィンブルドンでヴィーナス、全米ではセリーナと姉妹そろってビッグタイトルを獲得したウィリアムズ姉妹は、出場大会数が少ないためランキングこそ安定しないものの、心身ともに健康な状態であれば、いつでも優勝できるだけのポテンシャルを秘めている。
そのウィリアムズ姉妹とは対照的に、先の全米でセリーナと決勝を戦ったエレナ・ヤンコビッチ(セルビア)は、多くの大会に出場し、そのすべてでコンスタントに成績をあげることでランキングを維持するタイプで、今年8月には、1位の座にも付いた。だが彼女は、グランドスラムのタイトルはおろか、1位になった時点では決勝進出の経験すらない。そのため、多くのファンや関係者が彼女の1位という成績に違和感を覚えたが、テニスが「ツアー」という形態をとり、いかに一年間安定して戦えるかをもって選手の序列を決めるという状況をかんがみれば、ヤンコビッチは間違いなく強い選手である。
このヤンコビッチはかなり極端な例だとしても、ランキングを維持していくためには、どの選手もおのずと出場試合数が増えていく。そのため選手たちは疲弊し、けがが増えるというのも深刻な悩みだ。全豪OPチャンピオンのマリア・シャラポワ(ロシア)は、全豪も含め18連勝を上げるなど今年の前半戦は絶好調。左右に打ち分けるストロークや、ネットプレーも果敢に試みるなど、コートを広く使ったテニスを披露し「新生シャラポワ」を印象付けた。だがシーズン後半は持病の肩のけがが悪化し、北京五輪、全米OPを欠場。また、全仏OPでは念願のグランドスラムタイトルを獲得しランキング1位にもなったアナ・イバノビッチ(セルビア)だが、彼女も右手親指にけがを負い五輪を欠場。全米OPには復帰したが、試合勘が戻らないのか、精彩を欠いた動きで2回戦で敗退した。
このように、トップ選手たちが慢性的にけがを抱えツアーを周るというのは今に始まったことではなく、過密なスケジュールの改善は以前から叫ばれていた。そのような声を受け、WTAは来年よりシーズンの終了時期を2週間ほど早め、出場規定大会数も13から10に減らすなど、選手の負担を軽減した新フォーマットを採用することを明らかにした。だがこの新フォーマットでは、出場が義務付けられる大会が増え、それらを欠場した場合はペナルティが課されるなど、選手、特にトッププレーヤーへの負担が増えるのではという声もある。ただどの選手にしても、実際にやってみないことにはどのような効果があるか分からない……というのが現状。ただでさえ混戦模様の女子テニスだが、来年以降、勢力図が大きく変わる可能性はある。
「伊達効果」を生かした若手選手たちに期待
<了>
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