再認識した補強選手の重要性=第79回都市対抗野球総括リポート

島尻譲

目立った新進チームの躍進と近畿勢の低迷

ことしの都市対抗は、新日石が13年ぶり9回目の優勝を飾った 【島尻譲】

 アマチュア野球の最高峰と呼ばれる都市対抗。今夏も東京ドームで12日間(8月29日から9月9日)に渡って熱戦が繰り広げられ、横浜市・新日本石油ENEOSの13年ぶり、大会最多9回目の優勝で幕を閉じた。
 
 ことしは1回戦から好カードが多く、一昨年4強、昨年準優勝の東京都・JR東日本と大会最多50回目の出場となった大阪市・日本生命はその中でも屈指の対戦だった。終盤まで追いつ追われつという展開も、最後はJR東日本が2本のソロ本塁打で勝負を決め、日本生命は昨年(2回戦・0対4で敗戦)のリベンジを果たせなかった。
 また、ことし限りで活動休止が決定している川崎市・三菱ふそう川崎は九州地区第1代表の北九州市・JR九州と対戦するも、勝負どころで長打の出たJR九州の軍門に下り、最後の夏に4回目の優勝はならなかった。そのほかにも大会優勝経験があって下馬評も高かった浜松市・ヤマハ、横須賀市・日産自動車、さいたま市・日本通運などの名門・強豪チームが早々に姿を消す。昨年4強と奮闘を見せた札幌市・JR北海道も残念ながら2回戦で力尽きてしまった。
 そのような大会で破壊力のある攻撃陣と絶大な信頼のあるエース・香月良仁を軸にして熊本市・熊本ゴールデンラークスは2年連続で初戦突破、東京都・セガサミーも大会初勝利を挙げる。ともに2回目の出場の新進チームで、2回戦も接戦の末、競り負けたが(熊本ゴールデンラークスは松下電器に8回までリードするも2対4で逆転負け、セガサミーはJFE東日本に打撃戦の末、7対8で敗戦)、着実に力を付けていることをアピールするのに十分であった。
 
 気になったのは近畿勢の低迷。近年、企業チームの減少や地区割り(阪和・京滋奈・兵庫)などで他地区に比べて補強選手が手薄になってしまうこともあるのか、なかなか上位まで勝ち進めない状況が続いている。阪和の第1代表であった門真市・松下電器は補強選手を優先して獲得できたこともあり、どうにかベスト8に食い込んだものの全般的に打線の弱さは打ち消せなかった。そのような中、補強選手なしで臨んだ神戸市・三菱重工神戸の打線は元気があり、あとは若手投手陣が経験を積めばという期待を抱かせたのが救いであった。

攻撃に厚みをもたらした上位チームの補強選手

熊本ゴールデンラークス戦で決勝の3ランを放った松下電器・新田(右)。この一発に象徴されるように、試合を左右する本塁打が目立った 【島尻譲】

「今大会はコールドゲームがなかった。競り合いの1点差ゲームが12試合というように引き締まったスピーディーな試合が多くて盛り上がった」
 閉会式で大会主催社の朝比奈豊・毎日新聞社社長が総評したように、継投策で粘りを見せて準優勝した春日井市・王子製紙のように守備力に秀でたチームが上位まで勝ち進んだ。特に投手陣の顔ぶれに目を移すと、小野賞を獲得した太田市・富士重工業の阿部次男、さいたま市・ホンダの坂本保、東京都・鷺宮製作所の岡崎淳二らのベテラン左腕が持ち味を発揮して、力だけに頼らない投球の妙を存分に見せ付けてくれた。
 そのような傾向の反動なのか、攻撃陣は打線がつながると言うよりは、一発長打で試合を決めるというシーンが多かったように思える。大会総本塁打数は全31試合で42本。先制本塁打12本、逆転・勝ち越し(サヨナラ2本含む)本塁打9本という内訳からも効果的な本塁打が多かったことが分かるだろう。
 
 また、前述した都市対抗特有の補強選手という制度が勝負の明暗を分けることを再認識した大会でもあった。平馬淳(新日本石油ENEOS/川崎市・東芝から補強)、座喜味大河(王子製紙/岡崎市・三菱自動車岡崎から補強)、秋田祥孝(王子製紙/豊田市・トヨタ自動車から補強)、藤澤英雄(富士重工業/鹿嶋市・住友金属鹿島から補強)、北道貢(鷺宮製作所/東京都・NTT東日本から補強)ら、本来、所属するチームの主力野手が脇を固めることで攻撃陣に厚みの出たチームは結果的に躍進した。

 来年、80回記念大会を迎える都市対抗。今大会は幕を閉じたばかりだが、1年後の“真夏の球宴”に向けて、全国各地のアマチュア野球選手・関係者・ファンの熱い戦いはもう始まっている。

<了>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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