植田ジャパン、16年ぶり五輪の苦い現実

田中夕子

米国に敗れ、5戦全敗で五輪を終えた日本チーム=首都体育館 【共同】

 試合開始時刻は現地時間で22時35分。この試合に勝利しても、もう決勝トーナメント進出の可能性はない。それでも、手には日の丸を持ち、多くの観客が「ニッポン、ニッポン」と広い体育館のあちらこちらで必死に叫ぶ。
 だが、その願いははかなく潰(つい)える。予選ラウンド最終戦、米国との試合も0−3で敗れ、最終成績は0勝5敗。1つの勝ち星も挙げることなく、日本のバレー代表が五輪を終えたのはこれが初めてだった。

かみ合わない戦い

 初戦のイタリア戦を終えた後、どこか地に足が着かず、1敗を喫してもスタンドの家族や応援団に笑顔で手を振る選手たちに、植田辰哉監督からの雷が落ちた。
「お前たちは、勝負をしに来ているんじゃないのか」
 激を受けた選手たちは奮起し、初戦とは違う“本気”になった姿で、第2戦は格上のブルガリアから1セットを取る健闘を見せた。しかし、第3戦はホームの追い風を味方につけた中国にフルセット負け、第4戦のベネズエラ戦もいいところがないままストレート負けを喫した。
 エースの越川優は中国戦を終えた後、ふがいなさと悔しさを顕わにし、サポーターを床に投げつけた。そして16年の重みを自ら背負い続けた主将の荻野正二は、ベネズエラ戦で敗れ、決勝進出が消えた後、ベンチで静かに涙を流し、スタンドのサポーターに向け「ゴメン」と両手を合わせた。
 選手たちは、確かに変わった姿を見せた。だが、最後まで何かがかみ合わずにいた。

 予選ラウンド最終試合、米国戦の第1セットを失い、挽回(ばんかい)を誓って第2セットに臨む。出だしは山本隆弘のライトからのスパイク、ブロックで連続得点を挙げる。しかしそこからサーブカットが崩れ、世界でも「鉄壁」と名高い米国のブロックに屈し、連続失点を喫する。2−5で1回目のタイムアウトを要求し、その直後、植田監督は山本と清水邦広の交代を命じた。
 失点の要因は1つではないが、この場合はサーブカットを立て直すことが最優先かと思われた。だが、ここで指揮官が選択したのはオポジット(スーパーエース)の交代。山本の調子は、それほど悪くはなかった。事実として、ここまでのセット全得点は山本だ。当然、山本本人も納得できるわけがない。清水と交代後、アップゾーンへと戻る途中で、思わずタオルを投げつけた。
 皮肉にもその後も連続得点は続き、朝長孝介に代えて宇佐美大輔、石島雄介に代えて荻野を投入したが、米国との点差は縮まるどころか広がるばかり。もう一度山本をコートに戻したが、第2セットを落とした日本に逆転の契機は訪れないまま試合は終了した。

「軸」がぶれた全日本

 荻野が大会直前に右手小指を脱臼骨折、大会中には越川が左ひざ半月板を損傷するなどアクシデントに見舞われもしたが、致命的だったのは、最後までチームの軸、スタイルが確定しなかったことではないだろうか。オポジットは山本なのか、清水なのか。セッターは朝長なのか、宇佐美なのか。最終予選でチームを鼓舞し、これまでも植田監督が「このチームにとって不可欠な存在」と起用をこだわり続けた石島ですら、ベネズエラ戦ではスタメンを外れた。
 ベンチメンバーを含めた12人全員が戦力である“全員バレー”が植田JAPANのスタイルではある。だが、それはあくまでブレない形があってこそ。ともに22歳の清水、福澤達哉といったロンドン五輪に続く若い力の台頭は喜ばしいことでもあるが、彼らの存在も「軸」があるから生かされる。

 試合後、ミックスゾーンでの取材が終わるころには、時計の針は0時を回っていた。それでも数十人ものサポーターがスタンドに残り、「お疲れさま」と日の丸を振る。その声に、荻野は手を振りながら「ありがとう」と応えた。
 教訓は、生かさなければ意味がない。出場のためにすべての力を注いだ「16年ぶりの五輪」は終わった。次こそは、「勝つため」の五輪へ。

 4年の月日は、意外と短い。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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