栗原恵、エースの意地を見せるとき

田中夕子

中国ブロックに苦しんだ栗原。エースの意地が、柳本ジャパンの活路を開く―― 【写真は共同】

 17日の日本戦前、ポーランドが米国に敗れ、日本の準々決勝進出は決まっていた。だが、同日の予選ラウンド最終戦、地元・中国との一戦は、明後日(19日)からの決勝トーナメントに不安を残す内容となった。

めったに見ない交代

 エースへの荒療治なのか、はたまた苦肉の策か。
 「試す」場ではなく、「戦う」場であるはずの五輪本番で、これまでほとんど見ることのない選手交代が、ニ度あった。
 第1セット序盤は12−3と日本が大量リードを奪いながら、サーブレシーブの崩れから連続失点を喫し、みすみす中国に立ち直るチャンスを与え、最大で9点あったリードはみるみるうちに縮まっていく。柳本晶一監督は、その責任をそれまでわずか1本のスパイクしか決めていないエース・栗原恵に課す。レフトからのスパイクがブロックされ、18−20となった場面で、栗原に代えて狩野美雪を投入したのだ。
 狩野は器用な選手であり、ブロックアウトを取るスパイク技術も長けている。だが、二段トスを豪快に打ち切るタイプの選手ではない。これが5月の五輪最終予選で、サーブカットを安定させるためにアタッカーの高橋みゆきと交代を命じられるのであれば、異を唱えることもない。しかし、身長だけでも186cmの栗原に対し、狩野は174cm。プレースタイルも違う。
 ただでさえ狩野がメンバーに選出されたのは最終予選の直前であり、最終予選、ワールドグランプリでも栗原との交代投入というケースはなされていない。いきなり五輪本番で、長身選手が立ち並ぶ中国ブロックに対し、再び流れを引き戻すための攻撃力を求めるのは酷な話だろう。
 杉山祥子の移動攻撃で24−24とジュースまではもつれ込めたが、攻め手に欠き、最後は高橋が相手コートに入れにいったフェイント気味のスパイクをブロックされ、前半までは完全に主導権を握っていたはずの第1セットを失う。

苦しい打開策

 打って変わって第2、第3セットは中国が序盤から連続得点で大量リードを奪う。セットカウント0−2となり、5−8と3点差をつけられたところで、柳本監督はやはりサイドの栗原に代え、今度は大村加奈子を投入する。もともと大村はサイドの選手ではあったが、アテネ五輪以後はブロック力を生かし、ミドルブロッカーとして所属の久光製薬でも活躍し、代表にも召集されている選手だ。
 直前のワールドグランプリで「レフト・大村」を試しはした。しかし、大村本人も「これまでずっとミドルでやってきたので、レフトで結果を出すのは難しい」と吐露しているように、結果は振るわず、大会中盤から「レフト・大村」は立ち消えになった。
 ところが、ここに来ての思わぬ復活である。3本のスパイクを決めるなど、攻撃面では奮闘した。しかし、ミドルの選手は本来サーブ時以外に後衛での守備には参加しないため、スパイクレシーブの際に味方選手と交錯するなど不慣れ感は否めなかった。結局、第3セットも中国が一方的な展開に持ち込み、14−25と大差をつけられ0−3のストレート負けを喫した。

言い訳はしない―― 苦境を力に

 試合後、栗原は「決められなかった自分が悪い」と自らを責めた。主砲としての責任を抱いて臨んだ二度目の五輪、悔しさやもどかしさは、きっとアテネの比ではないだろう。

 とはいえ、ここは本当の「四年に一度、世界一を決める」勝負の場所だ。もはや、反省に明け暮れる時期でも、新たな策を試すところでもない。次なる女王ブラジルとの一戦を「最後の試合」にさせないために、エースは、どこまで意地を見せることができるのか――。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント